シマノ決算短信から見る世界の自転車業界情勢と今後の展望

シマノが2017年2月14日に発表した2016年12月期の決算短信によると、シマノの自転車関連の売上が2016年は昨年対比17.4%減とのことです。

シマノは財務状況が健全で基本的に超優良企業なので中期的な視点からは大きな影響はないと思いますが、売上減の原因は世界の各地域で起きていることがそのまま数字に反映されているようでとても面白いです。

そこで決算短信の記載内容を参考にしながら、2016年の世界的な自転車業界の動向を個人的見解を一部交えてざっくり見ていきます。

1. シマノの売上構成

まず参考情報としてシマノのセグメント別・地域別の売上構成を把握します。

シマノセグメント別売上高比率 シマノセグメント別営業利益比率

*[株主通信第109期]より引用(FY2015)

シマノは世代によっては釣具のイメージが強いかもしれませんが、自転車関連の売上比率が8割以上を占めています。利益率も自転車の方が高いのが特徴。

シマノ地域別売上高比率世界の地域別で見ると非常にバランス良く売上が分散しています。世界中でシマノのコンポーネント類が利用されているのがわかる綺麗なポートフォリオ。

この売上構成から、シマノのセールスがそのまま世界各地の自転車業界動向と密接に関わることが見て取れます。

 

2. 2016年シマノ決算短信から見る自転車世界情勢

2016年の世界情勢と売上への影響

冒頭に記載した通りシマノの自転車関連の2016年売上は17.4%減とのことですが、地域別の要因は決算短信に以下のように報告されています(抜粋)。

欧州市場では、春先の悪天候の影響で店頭販売に大きくブレーキがかかり完成車在庫が高留まりしていましたが、7月以降の好天により販売が好調に推移した結果、市場在庫は適正なレベルに調整されました。

北米市場では、完成車の店頭販売は前年をやや下回りました。一方で年初から高めで推移した市場在庫は昨年より低いレベルにまで調整されました。

中国市場では、景気失速と豪雨等悪天候の影響で、昨年来のスポーツタイプ自転車の店頭販売の不振は継続し、更に前年を下回る結果に終わりました。一方で高いレベルが続いた市場在庫は落ち着きを取り戻しつつあります。

他の有力新興国市場では、これまで堅調だった東南アジアのスポーツタイプ自転車の店頭販売が前年を下回りました。南米においては景気減速や通貨安の影響を受け依然として低調な状況が続いています。

日本市場では、昨年まで好調を維持してきたスポーツタイプ自転車の店頭販売は前年を下回り市場在庫はやや高めとなっています。軽快車の店頭販売は昨年に引き続き低調に終わりました。

外的な要因と事実関係のみの記載となっていますが、まとめるとこんな感じです。

  • ヨーロッパ:やや低調。前半天候が悪く販売低迷したが、後半回復して盛り返す。
    北米:やや低調。年初から在庫を抱えていたが後半はだいぶはけた。
    中国:低調。悪天候と景気悪化の影響で販売低迷。
    東南アジア:低調。
    南米:ずーっと低調。
    日本:やや低調。在庫もやや高め。

決算短信の記述からこれ以上要因の深掘りはできませんが、わかるのは2016年に世界で自転車販売の好調な地域が一つもなかったということです。世界的に自転車の販売が低迷した影響がダイレクトにシマノの売上にマイナス影響を与えています。
これに加えて、円高の影響を受けたことも減収減益の要因となっていそうです。

また本テーマとは関係ありませんが、連結子会社のパールイズミUSA*の販売不振も減損損失として計上されています。がんばれパール(日本じゃないけれど)。

*シマノはパールイズミUSAを2008年に買収していますが、日本のパールイズミとの間には資本関係はありません。

 

2017年の景気の見通し

今後の地域別の動向については、シマノが以下のように予測しています(概略)。

  • ・ヨーロッパは英国のEU離脱交渉、フランスやドイツなどで行われる大統領選挙・総選挙などで先行きが不透明
    ・北米は新政権がアレなので不透明
    ・国内は円安傾向で収益増が見込めるが、その他の影響がわからず不透明

引き続き成長を見込める材料がほとんどないという状況は変わりありません。さらに予測不可能な天候も影響するという状況下ではありますが、シマノは今期(2017年12月期)売上2.2%増の緩やかな成長を見通しています。

成長の根拠として、2016年前半に抱えていた高水準の在庫が後半には低いレベルに落ち着いたということから、2017年は自転車出荷量の増加が見込めているということが考えられます。

 

今後のシマノの中長期戦略

今後シマノは、中長期的戦略として以下の3つを挙げています(決算短信なので株主向けの当たりの良いふわっとした表現です)。

>1. コアコンピタンスの強化とマーケットの絞り込み

以前より自転車関連のコンポーネント類の優位性は揺るぎないところですが、さらに選択と集中を進めていきます。コンポーネントマニアにとっては今後の進化が楽しみなところ。

>2. 自転車文化・釣り文化の創造とブランド強化

マーケットを拡げるための、自転車の文化的価値(乗り物以上の価値)を高める活動。ライフスタイル層に刺さるOVEのような店舗のコンセプトから、ブランド力を高める戦略を一部見て取れます。

>3. 企業価値の向上

具体的な戦術は見えませんが、メーカーとしてはパーツの品質向上だけに留まらず、自転車そのものによるユーザー体験を向上していくことが企業価値の向上につながるところ。

シマノの成長は自転車業界の活性化とほぼ同義となるので、上記中長期戦略をベースに自転車産業の成長に大きく貢献してほしいと切に願います。

* * *

このように自転車業界は天候や景気に大きく左右される水物で、シマノだけでなくショップからも「自転車はどの時期に売れるのか予測しづらい」という声を聞きます。
国内に限って言えばアニメなどのプラス影響はとても限定的で、既述の通り2016年の日本市場は全体的にマイナス成長で、2017年の見通しも不明です。もちろん各方面のマーケティングでできることはまだあると思います。
ただ世界的に見ても今後の見通しは決して明るいとは言えないのが自転車業界全体の現状です。

 

参考文献(シマノ):
平成28年12月期 決算短信〔日本基準〕(連結)
株主通信 第109期(2015年1月1日〜2015年12月31日)