2022年の自転車界と、その先にあるスタイル〈Part2: スタイルとコミュニティの時代〉

2022年の自転車界座談会 part2

Love Cyclistメンバー4人による座談会。
Part2では、引き続きスタイルの変化について視点を変えながら語り合い、それらひとりひとりの活動を支えるコミュニティの在り方まで話を広げていきます。

Peloton de Paris2022春夏コレクション

5. 続・スタイルはどう変化するか

トレーニングのリアル

Tats:(Part1の続きから)話を日本に戻しますね。
このメンバーの中で最も自転車歴が長くて、レース経験の多いRyujiくんは、まわりにもレースを主目的に走るライダーがたくさんいるよね。Ryujiくん自身も去年はトレーニングを再開したけれど、昔レースを走っていたときと比べて今のレーススタイルは変わっていると感じますか。

Ryuji:僕は高校生の頃ロードをはじめて、最初の数年間はレース漬けでした。もう10年以上前の話ですね。最後には燃え尽きてしまったのですが、そのときの経験で、自分がどれくらい走り込めばどれくらいのレース強度に付いていけるか、というのが感覚的にわかるようになった。だから去年はそれをベースに本格的なトレーニングを再開しました。一応おきなわ目標ということで。

Mei:去年のはじめに「レースに復帰する」ということを話していましたね。めっちゃ応援してました。

Ryuji:で、現役でレースやっている方たちと一緒にトレーニングしてみてわかったのが、昔のスタイルでは到底今のトップレベルには到達できないということです。昔はもちろんZwiftやスマートトレーナーはなかったので実走ベースのトレーニングだったんですが、今は室内トレーニングで効率的にパフォーマンスを上げるのが当たり前。

Tats:ローラーありきの世界になりましたね。毎日のように乗れる人は本当に尊敬しかない…。

Ryuji:僕もZwiftはずっと続けてはいましたが、外でのトレーニング以上に義務感の方が強く出ることがあってモチベーションを上げづらいし、計画的に取り組まないとパフォーマンスも上がらない。

Tats:それとレースに向けたトレーニングって、どうしても相当量の時間を確保しなければいけないところがすごくハードル高いな、と思っています。

Ryuji:レースのレベルまで持っていくには、それこそ週に何回もローラー含めてコンスタントに乗るとか、最低でも月間1,500km走るとかが必要です。じゃあ仕事と家庭を持っているサイクリストはどうすればいいかと言えば、時間配分を大きく自転車に寄せなければならない。僕も家庭を持つようになってより実感しましたが、これやると必ずどこかにしわ寄せがいくんですよね

Tats:小さい子どもが2人いる僕の家庭環境で「本気でトレーニングします」となったら、どこにも影響与えないでやるのは実質不可能だし、あと普通に崩壊する像しか見えない…。

Ryuji:半年ほど実走とローラーを組み合わせてトレーニングして、ある程度までFTPも上げられましたが、自分の環境を鑑みてレースに間に合わせるのは無理だという判断になりました。勝負に絡める可能性がないのであれば出ても意味がないですし。

ローラーでのトレーニングが前提となったレースレベル

引き出しをいくつも持つ

Mei:最初に「レース訴求だけだとキツい」というマーケティングの話がありましたが、社会的にワークライフバランスが当たり前になってきたからこそなんだろうなと感じています。
レース訴求も従来通り必要なんですが、そこにフィットしない人が増えていて、スタイル訴求へも関心が向くという。

Ryuji:そう、やっぱりコンペ寄りの走り方だけだと、続けられなくなるときが必ず来るんです。
だけど、僕自身一度燃え尽きた経験もあって、ほかの楽しみ方も見出していたから、今回のようにレースを諦めたとしても気にならない。目標がなくなったのなら、じゃあ次はソーシャルライドを楽しもうってなれる。

Rin:Ryujiさんと一緒に走って思うのが、そういう幅がありつつ、根っこは変わらずレーサー気質なのが良いんですよね。

Ryuji:それはあるかもしれないですね。僕はレースから自転車を始めたので、自分の走りの楽しみ方のベースは「速く走ること」にある。そこはずっと変わらないから、ソーシャルライドでも強度は上げることもあるし、また本格的にトレーニングしたくなったら再開すれば良いという考え方です。

Mei:そう、だからRyujiさんと走るのいつもキツかったです(笑)。

Ryuji:僕は楽しかったです(笑)。

Tats:ここで言いたいのって、「レース志向がもう時代に合わない」とかではなく、レースとそれ以外を楽しめる環境なのであれば両方でもやれば良いし、義務感や無理が生じたらスタイルを変化させていけば良いということだよね。

Ryuji:ですです。極端にコンペティティブな走り方をして、燃え尽きて自転車をやめた人を何度も見てきたこともあるので、楽しみ方の引き出しをいくつか持った方が、自転車を長く続けられることは間違いないです。

 

6. Re: 好きなときに走ればいい。

Tats: Meiさんが去年書いた「好きなときに走ればいい。」という記事はたくさん反響をいただいたのですが、ここで伝えたかったこともこれまでの話とリンクしますね。特定のスタイルに縛られなくていいという話と、自分の気持ちに正直に走ればいいという話。

Mei:もともと私はブルベによく参加していて、SRを取ろうと距離を走ることに夢中になっていた時期があったのですが、あるときブルベ中に落車して大きな怪我をしたんです。

ブルベによく参加していた頃のMei

Rin:3年くらい前だっけ?

Mei:そう。しばらくは走ることもできなくて、目標がバサッとリセットされて。乗れるようになってからサークルの仲間とのんびり走っていたときに、ふと「しがらみなんてない」ということに気が付きました。こう走らなきゃいけないとか、距離稼がなきゃいけないとか、そんなものは最初からなくて、妄想で描いていたこうありたい自分の姿で自身を勝手に縛り付けていたんですね。
よく友だちと「事実と現実は違う」と言うんですけれど、“300km走った”という事実ではなくて、“300km走って、頑張っている自分”という現実にとらわれていたというか。
それに気づいてから、「好きなときに走ればいいじゃん」っていう考え方になりました。

Ryuji:僕らの中でMeiさんが一番自転車を自然に楽しんでいるよね。

Mei:お、そうなんですかね。

Ryuji:13年くらい自転車を続けてきたけれど、RinくんやMeiさんに会って思ったのが、「やっと自分のスタイルを持った若いサイクリストが出てきた」ということです。自分と周囲を照らし合わせて、どんな走りが心地よいかを自分で考えて答えを導き出している。

Tats:そうなのよね。これまでの業界の動向から見れば奇跡だと思う。だから大事にしたい。

Ryuji:あの記事もMeiさんが言うからこそ説得力があるし、なかなかメディアとしては「走らなくていい」とは言いづらいんだけど、おかげですっとみんなのお腹に落ちていった感じがする。

Mei:えへへ。私もなんだかんだ意識しないとがんばり過ぎてしまう性格なので、自分のために書いた部分も大きいのですが、読んだ方から「気持ちが楽になった」って言っていただけるのは本当に嬉しいです。

 

7. コミュニティの話①価値観で繋がる

Tats:あとこうした自転車に対する考え方だったり楽しみ方って、自分がどのコミュニティに属するかでかなり影響されますね。

Mei:それは本当に。年代・職業とか含めて付き合う人のバックグラウンドが全然違ってくるので、自転車コミュニティって面白いなと思います。

Ryuji:その形態も、地域のコミュニティもあれば、ショップやメーカーのチームがあったり、オンラインで繋がった仲間同士のチームもあります。

Rin:そういえばラブサイのコミュニティはチームとは言っていないですね。

Tats:確かに、そういえば自分たちには使っていないですね。チームって何か達成すべき目標があってそれに向かってメンバー全員が取り組む集団のことなので、合わないと感じていたんだと思う。

Ryuji:自転車チームだと、目標が「レースで結果を出すこと」で、KPIは「個々のパフォーマンス」だったりですね。

Tats:そうそう。僕らはメディアがベースになったコミュニティなので、企画によってライドスタイルが変わることも多いし、メンバーの個性もスタイルも少しずつ違う。だから「どんな集団か」と言われるとすごくふわっとしていて。
“一定の価値観を共有する集団”みたいな感じなんだけど、答えにくいので説明はいつもRyujiくんに任せてきたし(笑)。

Rin:Ryujiさん愛媛に移住されたの痛いですね。

Ryuji:そこか(笑)。
でもさっき話に出てきた、「楽しみ方の方向性をいくつか持つ」というのは、チームという目標ありきの集団に入ってしまうと実現しづらいのかもしれませんね。スタイルが限定されてしまいがちで。
チーム外のソロ活動で色々実践できる人であれば良いけれど、誰かと一緒に走ることでモチベーションを上げるタイプだとなおさらです。
そこでコミュニティ=価値観で繋がる集団だと、色々なものに対応できる柔軟性があるんだろうなと思います。

Tats:そうですね。ただそういうコミュニティ自体が、競技系チームに比べればまだそんなに多くないというのもあるし、じゃあ自分で作ろうと思ったとき、僕が言うのもなんですが、レースとかの目標がないぶんチーム作りよりもハードルが高い気がします。

Rin:そうなんですかね。

Tats:ラブサイのコミュニティは“一定の価値観を共有する集団”として本当にいいメンバーが参加してくれるんですが、メディアありきで集まっているので再現性はない。普通にコミュニティを作ろう!と思ったときどうアクションすれば良いか。

Mei:あぁ、それを聞いて思ったんですが、Raphaのイベントで『Women’s 100』とか『Festive 500』がありますよね。

Ryuji:Meiさん一昨年Women’s 100に参加してたね。

Mei:はい。参加者に指定されているのは日にちと距離だけで、どんなスタイルで・どんなバイクで・誰とどこを走るかは自由というやつです。
そのときは3人で参加したのですが、このイベントのおかげで、女性だけで走る機会を作れただけじゃなくて、一緒に走った方とすごく親密になれたし、世界中の女性サイクリストとの連帯感も味わえた。
これは自然なコミュニティづくりの事例だなと思いました。そのイベントのために集まった参加者同士が繋がる。そしてイベント後も形は変えながらその繋がりは続いていくという。

Meiが参加したWomen’s100 ©NOB

Tats:そうやって考えると、Women’s 100もFestive 500も、Raphaのブランド認知獲得とか限定コレクションの販売目的だけじゃなく、コミュニティ形成まで考えられたすごく良い取り組みですね。

Rin:距離設定も絶妙ですし。連帯感も達成感も味わえる長さ。

Mei:何かのイベントをきっかけにコミュニティがはじまる、というのは参加者同士の価値観を共有しやすいからハードルが下がりますね。
そこからほかの仲間を紹介してもらったりすれば、意外と繋がりは広がりやすいのかもしれない。

Tats:紹介で広げていくのはリスクも低いし、親和性の高いグループができやすいですしね。僕たちの中だとRinくんがその役割を担ってくれている。

Rin:はい。僕はみんなのハブなんだなって、あるとき気づきましたね(ドヤ顔)。

Tats:(笑)。

Ryuji:あとはコミュ力が必要ですが、道とかカフェで気になったサイクリストに声を掛けてみるとか。

Tats:確かにTakaさんとかHirokoさんは偶然ライド中に見かけて「素敵!」と思って、ナンパして捕まえましたからね。ここはナンパ担当のMeiさんがいるし。

Mei:任せてください!(笑)

 

8. コミュニティの話②多様性の受け皿

Tats:こういうコミュニティ形成の話に関連してずっと思っていることがあって、趣味に対してどういうスタンスで臨んでいるかって人によって全然違いますよね。

Ryuji:特に自転車は関連するギアの種類も数も多いし、走り方や目的意識も個々で大きく変わりやすいですからね。

Tats:そんな中で、これまでって「速く走るためには/距離を稼ぐには」という切り口で、情報もモノも提供されることが多かった。
例えるなら、大きなピラミッドがひとつあって、その頂点をみんなで目指しましょうというような提案ですね。レースとか、ブルベとか、あとは個人単位だとエベレスティングやキャノンボールのようなエクストリーム系もあって、いずれもピラミッド型の体験。

Mei:あとイズイチのような○○イチ系もそうですね。

Tats:そうそう。これらが注目され続けているのは、ひとつはわかりやすさがあります。順位、獲得標高、距離といった明確な指標があるので、参加している本人も周りもゲームを攻略するような感覚で臨むことができる。もちろんクリアする人はめちゃめちゃすごいし、競技スポーツという観点から、なくてはならないイベントだと思います。
そういう中で、今の時代って個々の多様性を認める動きから、ゲームとは違って白黒つけられない事柄や体験が増えているんですよね。で、これからの自転車のコミュニティって、どっちかというとそういう多様性を受け入れるための受け皿になっていくんだろうなって思っているんです。

Ryuji:ラブサイのコミュニティも、価値観で言えばまだマイノリティサイドですからね。

Tats:ね。形のイメージで言うと、ピラミッドのような尖った形状ではなくて、柔らかくてふわふわした感じのもの。それがこの先いくつもできていって、競技の枠にハマらなかった色んな人を受け入れていく。

Mei:柔らかいから形を都度変えられるんですよね。常に同じメンバーで同じスタイルで走るのではなくて、ときには違うことをしたり、ほかのコミュニティと交わったり。
実際、Rinは一番色々なところと繋がってるよね。

Rin:そうね。周りに学生とかSNSでつながったゆるいコミュニティがあって、こないだは競技部出身の人たちと走りました。

Tats:そういう境界を感じさせない付き合い方がコミュニティならではだと思います。その中だと「ガチ勢」とか「おしゃれ系」とか分断を生むような言葉が出てこない。

Rin:ちなみにそのライドのカフェ休憩中何を話していたかと言うと、ずっとタイヤについて語っていましたね…。

Tats:ふふ…機材への知識と熱量がすごくて面白い。

Ryuji:でも僕とTatsさんのふたりのときはよく機材の話しますよね。

Tats:自転車乗りなのでもちろん機材の話は好きだけど…でもタイヤだけで延々と語れるのはレベルが違くない!?

Mei:同じ熱量でウェアとかスタイルについてはよく話していますよ(笑)

Tats:あ…そうね(笑)。

多様な価値観が融和するコミュニティという形態

Ryuji:だから基本何らかのオタクなことがほとんどですよね僕たちって。機材オタクなのかウェアオタクなのかの違いこそあれ。
そういえば女性同士で繋がって走るときだとどういう会話になるんだろう?

Mei:あ〜、全然会話の内容違いますね。まず機材の話はほぼしない。ウェアについては少し話をするけれど、ラブサイメンバーみたいにコンセプトがどうとか細かい仕様とかまではさすがにいかないです(笑)。プライベートの話がほとんどですね。

Ryuji:オタクと正反対のコミュニケーションだ。

Tats:(笑)。でもそれでいいんだよね。
特定のモノ・コトに対してありったけの熱量をメンバー全員が注ぐのではなくて、オタク要素を含めた関心ごとがそれぞれにあって、お互いの共通点を探しながら人と繋がっていくという。

Rin:これからの優しい自転車コミュニティの世界が見える気がします。

Tats:優しい世界で走っていたいよね。
…と、ここまででかなりのボリュームの内容を話しました。本当はこのあと、スタイルとコミュニティの時代に僕たちが次に選ぶバイクってどんな基準になるのだろう、という話をしたかったのだけど、もう話しすぎて時間がないので、それはまた別の企画に送ります。

Ryuji:なんだかんだ自転車選びってめちゃくちゃ楽しいですからね。あーだこーだ話すだろうからこのまま続けると終わらない。

Mei:色々発散して楽しかったですし、この先の展望も見えたなと思います!また集まって話しましょう。

モノが高騰化して流通が不安定な時代の幕開けとなった2022年。

どうしても暗い要素が覆ってくる中、Ryujiの言った「引き出しをたくさん持つ」という考え方は、どんな状況でも自転車を続ける上で本質的なものだと思います。環境に合わせて柔軟にスタイルを変え、無理のないようにライフスタイルにおける自転車の配分を上下させる。そして価値観で繋がるコミュニティの存在がそれを支える。

今回話したテーマと僕たちの考え方を、これからの時代を力強く走り抜くための材料にしてもらえればいいなと思います。

Thanks! Ryuji, Mei, & Rin
Text & Edit/Tats