text/Ryuji(@marusa8478)
最適なペダルを見つけよう。
ロードバイクとサイクリストを結び付けるビンディングペダル&専用シューズ。ペダリングの効率や安定性を高めるために導入するものですが、メーカーごとにホールド感や脱着のしやすさが異なるため、自分のスタイルに合ったモデルを選択する必要があります。
ここでは、ロード用ペダルの4メーカー(シマノ・LOOK・TIME・SPEEDPLAY)について、実際の使用感を含めたメーカーごとの特徴を詳細に見ていきます。
*本記事は2019年公開記事を現状に即して改訂したものです。
1. ビンディングシステムとペダルの選択肢
ビンディングシステムの構造
ビンディングペダルは、サイクリングシューズに取り付けたクリートをペダルにはめることで足が固定される仕組み。
そのためビンディングシステムを使うときは、ペダル+クリート+シューズの3点セットが必要となります。
またクリートは消耗品なので、ランニングコストが発生する点を頭に入れておきます。
ロードバイク用3穴か、MTB用2穴か
3穴と2穴
LOOKが開発した現在のロード用ビンディングシステムは、シューズに開けられた3つの穴にボルトを使用してクリートを取り付けるもの。シマノ・LOOK・TIMEのロード用ペダルはこの「3穴式」を採用しています。
*同じロード用でもSPEEDPLAYだけは「4穴式」。使用するためには4穴専用のシューズまたは4穴変換シムを用いる
MTB用に開発された「2穴式」は、クリートが小さく脱着しやすいのが特徴。3穴と比較してパワー効率は下がりますが、歩行もしやすいことからシクロクロス・ツーリング・グラベルライド等に用いられます。
どちらを選ぶべきか
ロードバイク初心者には脱着しやすい2穴タイプをおすすめするという意見もありますが、2穴と3穴は目的も使用感も異なるもの。乗り手のレベルではなく用途に応じて選ぶべきであり、例え初心者でも舗装路の走行を主目的とする場合は、最初から3穴の使用を推奨します。
本稿は通常のロードサイクリングやレースに最適な3穴のロード用ペダルを使うことを前提にまとめています。
2. ペダルの使用感を判断するポイント
ロード用ペダルは<シマノ / LOOK / TIME / SPEEDPLAY>の4メーカーから選択できます。
この中ではLOOKが歴史的に古く、現在のビンディングシステムの基礎をつくりました。その後さまざまなメーカーが独自の機構を開発し、最終的にメジャーなプレイヤーは上記4メーカーに絞られるようになっています。
それぞれ構造が異なるため、ペダルの使用感は以下のポイントを元に判断していきます。
パワー伝達要素
スタックハイト
シューズ底面とペダルシャフト中心を結ぶ距離を表すスタックハイト。低いほどダイレクト感が得られ、またサドルが下がるためバイクの安定性も向上する傾向にあります。
逆にスタックハイトの高いペダルの場合、サドルが上がるのでハンドル落差を出しやすくなるというメリットもあります。
4メーカーを比較すると、SPEEDPLAY(4穴)が最もハイトが低く、次いでSPEEDPLAY(3穴変換)>TIME>シマノ>LOOKの順にハイトが高くなります。ただしモデルによって差があるため、全モデルが一概にこの順番というわけではありません。
踏面の広さ
クリートとペダルの接触部分=踏面が広いほどトルクをソール全体から伝えることができるため、「踏めている」感覚が得られます。
LOOKやシマノは左右幅が広く面積があるため、より踏面を広く感じ取ることができます。
ペダリング・ポジション調整要素
フローティング角度
フローティングはペダルにシューズをはめたときにできる左右の「遊び」のこと。この角度が大きいほど足首を柔軟に動かすことができ、膝関節に対する負荷を下げられます。
クリートの種類によってフローティング角度は異なり、また角度ゼロの固定クリートもあります。
メーカー | クリート選択肢 |
シマノ | 0° / 2° / 6° |
LOOK | 0°/ 4.5° / 9° |
TIME | 0°/ 10° |
SPEEDPLAY | 0°〜15°(無段階調整可) |
Qファクター
一般的に両脚のスタンス幅を表すQファクター。クリート位置を変えたり、ペダルのシャフトを交換することで調整します。メーカーによって調整幅が異なりますが、一番狭くできるのはSPEEDPLAY。
小柄な体型ほどQファクターを狭く、大柄な体型や骨盤の広い女性ほどQファクターを広くする傾向があります。僕は比較的狭めのQファクターを好むため、固定箇所が内側にくるようにクリート位置を調整しています。
※Qファクターの定義について
Qファクターの正確な定義は「一方のクランクアーム外側から反対側のクランクアーム外側までの距離(①)」ですが、現状はさまざまな解釈で使われます。「ペダルのセンターからクランク取り付け部分までの距離(②)」を表すこともあり、また①と②を含めた「両脚のスタンス幅(③)」という意味でも用いられます。
本稿では②を「ペダルQファクター」、③を「Qファクター」と記載します。
3. ペダル4メーカーの特徴と使用感
僕自身、競技者時代から今に至るまで、4メーカーすべてのペダルシステムを使用してきました。
現状はlOOKペダルに落ち着いていますが、これまでの実際の使用感を元に、各メーカーの特徴やメリットをフラットに比較していきます。
① Shimano – シマノ
シマノの「SPD-SL」はビンディングペダルの代名詞にもなっているほど、多くのサイクリストに選ばれる定番ペダル(SPD=Shimano Pedaling Dynamics)。
メインのラインナップはコンポーネントと同様にTiagra/105/Ultegra/Dura-Aceのグレードが用意されているほか、着脱がしやすいようにバネが弱く設定された入門者向け「LA(ライトアクション)」モデルも揃えています。あらゆるレベルのサイクリストに応えるペダルが揃っているのが特徴。
シマノペダルの使用感
パワー伝達 | ★★★ | 脱着しやすさ | ★★☆ | クリート耐久性 | ★★★ |
SPD-SLは、ホールドがカチッとしていてブレない感じ。足の裏で広く踏めている感覚が味わえるのはシマノならではだと感じます。
シマノのクリートはカラーによってフローティング角度が異なり(赤0°・青2°・黄6°)、僕は青のクリートを使っていました。まずは遊びの多い黄色を使い、慣れてきたらほかの色を試してみて自分に最適なフロート角を見つけていくのが良いと思います。
SPD-SLはほとんどのショップで取り扱われているので入手しやすく、ペダル自体の耐久性も高いため、パワー伝達と運用コストを含めた全体のバランスが良いのがシマノのメリットです。
SPD-SLペダルの代表的なモデル
モデル | 重量 | スタックハイト | ペダルQファクター | 価格 |
PD-R9100(Dura-Ace) | 114g | 13.7mm | 52mm | ¥18,980 |
PD-R8000(Ultegra) | 124g | 13.7mm | 52mm | ¥11,300 |
PD-R7000(105) | 133g | 13.7mm | 52mm | ¥9,103 |
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② LOOK – ルック
80年代に3穴式のビンディングシステムを初めて開発したLOOKのロードモデルは「KEO」シリーズ。
上位モデルは“BLADE”と呼ばれるカーボンの板バネが用いられ、エアロと軽量化を実現しています。ミドルグレード以降は金属バネが用いられているため、使用感は若干異なってきます。
LOOKペダルの使用感
パワー伝達 | ★★★ | 脱着しやすさ | ★★☆ | クリート耐久性 | ★★☆ |
LOOKはやはりパテントを提供しているシマノと近い使用感です。
ただカチッとはめる時とその後のホールド状態は、シマノを少し緩くした印象。またペダル本体の剛性がシマノより若干低めなフィーリングです。これは金属バネのシマノペダルとカーボン板バネのKEO BLADEとの違いによるものと思われます。
この違いは好みが分かれるところだと思いますが、長距離を走るときはLOOKの適度な剛性感が合うかもしれません。
LOOKのクリートもカラーによってフローティング角度が決まっており(黒0°・グレー4.5°・赤9°)、シマノより広めの可動域も選べるので、膝への影響を抑えたい場合も選択肢に入ると思います。
LOOKペダルの代表的なモデル
モデル | 重量 | スタックハイト | ペダルQファクター | 価格 |
KEOブレード カーボン | 115g | 14.8mm | 53mm | ¥18,000 |
KEO 2 MAX カーボン | 125g | 17.3mm | 53mm | ¥14,000 |
KEOクラシックス3プラス | 140g | 17.8mm | 53mm | ¥8,500 |
③ TIME – タイム
ビンディングペダルにフローティング機構を取り入れたTIME。
軽量モデルの「Xpresso」シリーズとエアロモデルの「XPRO」シリーズに分かれ、名称の後ろに付けられた数字(1〜15)によってグレードが分けられます。
グレードによる構造の差異はありませんが、重量やベアリングの回転性能が異なります。
TIMEペダルの使用感
パワー伝達 | ★★☆ | 脱着しやすさ | ★★★ | クリート耐久性 | ★☆☆ |
TIMEは左右水平方向にも遊びがある独自システム。他メーカーがシューズでペダルの爪をこじ開ける機構に対し、TIMEは元から開いた状態の爪にはめる機構。初心者にも簡単にはめることができ、ホールド時のヌルっとした感覚も独特です。着脱しやすく膝への負担が少ないので、普段使いにはとても良い選択肢だと感じます。
シマノと比べるとスタックハイトは低いものの、踏面は若干狭く、トルクをかけた時も少し力が逃げる感じがあります。そのため競技使用を目的としていたときには向いていないと感じていました。
ただ踏面については、2017年に加わったXPROシリーズが従来の700m㎡から725m㎡に面積が広がったため、より競技者向けのフィーリングになっています。
TIMEペダルの代表的なモデル
モデル | 重量 | スタックハイト | ペダルQファクター | 価格 |
XPRESSO 10 | 99g | 13.5mm | 53mm | ¥25,300 |
XPRESSO 4 | 115g | 13.5mm | 53mm | ¥13,200 |
XPRESSO 2 | 115g | 13.5mm | 53mm | ¥8,800 |
XPRO 10(エアロモデル) | 113g | 13.5mm | 53mm | ¥25,300 |
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④ SPEEDPLAY – スピードプレイ
4穴クリートのSPEEDPLAY。ペダル両面での着脱、フロートの無段階調整、Qファクター調整が容易など、ほかのメーカーにはない独自のメリットが魅力的。
2019年にWahoo傘下となり、2021年にWahoo SPEEDPLAYブランドでのモデルが発表されました(近日発売予定)。基本的にラインナップや機構は変わらないものの、メンテナンス性や歩行性が向上。またWahooロゴがペダルに入っています。
SPEEDPLAYペダルの使用感
パワー伝達 | ★★★ | 脱着しやすさ | ★★☆ | クリート耐久性 | ★★☆ |
SPEEDPLAYはペダルをクリートで包み込むような構造のため、ホールド感はシマノのようにかっちりしていて、トルクをかけた時も面で広く受け止めている感覚を得られます。
骨盤が狭い僕の体型にとって、4メーカーの中で最もQファクターを詰められることも魅力です。
ただ慣れるまでとてもはめにくいことと、クリート価格が高い点は注意。また普通のスニーカーでは乗りにくいという些細なデメリットもあります。
SPEEDPLAYペダルの代表的なモデル
モデル | 重量 | スタックハイト | ペダルQファクター | 価格 |
Speedplay Zero | 111g | 11.5mm(3穴) | 53mm | ¥25,000 |
Speedplay Comp | 116g | 11.5mm(3穴) | 53mm | ¥19,000 |
Speedplay Aero(エアロモデル) | 112g | 11.5mm(3穴) | 53mm | ¥32,000 |
4. ペダル4メーカー総合比較
シマノ | LOOK | TIME | SPEEDPLAY | |
パワー伝達感* | ★★★ | ★★★ | ★★☆ | ★★★ |
着脱しやすさ* | ★★☆ | ★★☆ | ★★★ | ★★☆ |
クリート耐久性* | ★★★ | ★★☆ | ★☆☆ | ★★☆ |
クリート価格目安 | ¥1,800 | ¥2,000 | ¥2,800 | ¥8,000 |
フロート角 | 0°/2°/6° | 0°/4.5°/9° | 0°/10° | 0°〜15° |
スタックハイト | 13.7mm | 14.8mm~ | 13.5mm | 8.4mm~(4穴) 11.5mm(3穴) |
ペダルQファクター |
52mm | 53mm | 53mm | 53mm |
強み | ・踏面が広い ・ペダル耐久性が高い ・運用コストが安い ・入手しやすい |
・踏面が広い ・適度な剛性感 |
・膝に優しい ・ペダルが軽量 |
・両面着脱可能 ・高いホールド感 ・強いダイレクト感 ・Qファクター調整幅 |
*★評価は個人のインプレッションです。
各ペダルそれぞれ特徴が異なるため、どれがベストかはサイクリストのライドスタイルや体型によって変わってきます。
僕はシマノ(105)→LOOK(KEO BLADE CARBON)→TIME(Xpresso10)→SPEEDPLAY(ZERO)→シマノ(DURA-ACE)→LOOK(Favero Assioma Duo)の順に使用してきて、最終的にシマノかLOOKが最適だと感じています。
ただいずれのメーカーも秀でたポイントがあります。
シマノはカッチリ感が最も強くて、気持ちよく踏める上に運用がラクであること。LOOKはシマノほど硬くないため、長距離で脚にストレスを感じにくいこと。TIMEは着脱しやすく膝に優しいこと。SPEEDPLAYはスタックハイトが低くダイレクト感やパワー伝達に優れていること───といったように。
どれが自分のスタイルに合っているか、実際に自分で試していく必要はありますが、こういった情報を参考にしながら最適なペダルを探し当ててもえらると幸いです。
Text/Ryuji(@marusa8478)
Edit/Tats(@tats_lovecyclist)