なぜ良い機材を求めてしまうのだろう
「自分より良い機材を使っている人を追い抜かすのが気持ちいい」と言うのをときどき聞くことがあります。
その気持ちはある程度理解できますが、違和感も少なくありません(そもそも良い機材を使っている側は抜かされても何とも思っていないことが多いですが)。
良い機材だから速いという前提は一理あるけれど、軽量化やパーツ交換で速くなれる範囲には限界があり、本質的ではありません。
少なくともロードバイクにそれなりにお金をつぎ込んでいればそれはわかっているはず。でも良い機材をアセンブルしている立場に立ったとき、なぜ僕らは次々とパーツのアップグレードを行ってしまうのだろう?
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例えば、以下のような「体験」は僕らはずっと覚えています。
- ・ロードバイクに初めて乗ったときのこと
- ・ビンディングシューズで初めてペダルを回したときのこと
- ・ビブショーツを初めて着て走ったときのこと
これらは多くのサイクリストが通ってきた道であり、この道は今まで知らなかったより良い世界を「体験」することだったと思います。どれをとっても自分の中で良い思い出になっているはずです。
体験こそすべて
ロードバイクのおける新しい体験がいつまでも思い出として残り続けるように、機材交換というのも同様にすべての体験がイノベーティブです。
ホイール交換ひとつをとっても、軽くてぐいぐい進む気持ち良い感覚は実際に体験してはじめてわかるもの。あるいはコンポーネントグレードを上げて操作感の違いを指先で感じ取るときの何気ない喜びもそう。この瞬間の「体験」こそが機材交換のクライマックスです。それはお金を使っていなければ見えることのなかった世界です。
このイノベーティブ体験は、例えばiPhoneを新モデルに買い換えることにも似ています。本質的にできることはほとんど変わらないけれど、利便性やスピードなど細かな体験が新鮮になる。先日iPhone4sから7に替えた知人は、その大きな変化に「ヤバい」としか言いませんでした。
つまり、イノベーティブな「体験」は機能性とかコスパとかいった理性的な説明をすべて無意味にしてしまう。それくらいインパクトのある体験なのです。彼の語彙が少ないとかは関係ないです。
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だから機材投資というのは、機材そのものを買うための行為ではなく、良い機材がもたらす「イノベーティブな体験」を買うための行為となります。速さを求めるだけが機材投資の本質ではないことがわかるはず。
ただ、新たな体験を得るための投資額は並ではないので、深く悩み抜いた後にやっと決断することになります。でも機材投資においては、この「悩む→買う→使う」という一連の流れが最高の体験を生むことに繋がります。悩めば悩むほど期待値が上がり、新しい機材を使っている自分がより具体化し、実現したときに得られる体験は至高のものになります。
しかし、もしそこで「買わない」という選択肢を選んでしまうことほどナンセンスなことはありません。「悩む→買わない」では僕らは何も得ることはできません。ただ悩んだ時間が無駄に終わっただけです。
新しいホイールが欲しいと心の中で思ったならスデに行動は終わっているくらいに、「悩む」ということは「買う」への一方通行であるということを僕らは肝に銘じておくべきだと思います。
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お金は素晴らしい「体験」のために使うべきです。良い機材はそれを疑いもなく提供してくれる。そしてそこから僕らしか知り得ない新しい世界がさらに広がっていきます。「買わない」ことを選んだ人たちを後に残して。
(という沼の話)