走行内容を数値化するGPSサイコンは、ライドを定量的に評価するために欠かせないもの。
かつてGPSサイコンといえばGarminが市場を独占していたが、ここ数年で競争力のあるプレイヤーが次々とこのマーケットに参入し、サイクリストにとって新たな選択肢が生まれている。
しかしその分だけ、多種多様な機種が存在することで自分に最適な1台への絞り込みは手間になったとも言える。そこで主要プレイヤーから発売されている各モデルを、クラス別に機能比較する。
text / Tats(@tats_lovecyclist)
*2024年11月更新:Bryton Rider S500→S510にアップデート
*2024年12月更新:Wahoo ELEMNT ACE追加
GPSサイコン主要メーカー
GPSサイコンの勢力図は、グローバル規模では「GarminかWahooか、それ以外か」となっている。メーカーはほかにも多数あるが、このツートップに迫るほどのメーカーは現状存在していない。ただ国内では、代理店が取り扱うことになったBryton(台湾)とiGPSPORT(中国)の2社がシェアを伸ばしている。
Garmin – GPS精度とハードウェアが強み
GPS計測精度で業界最高レベルのGarmin(ガーミン)。創業年となる1989年頃は、ちょうどGPSシステムが一般に広く利用可能になったタイミングであり、以来GPSを用いた高度なテクノロジーに重点を置いて製品が開発されてきた。
GPSサイコンの「Edge(エッジ)」シリーズは、エントリー向けの100系、スタンダードの500系、フラッグシップの800系、大画面の1000系という4カテゴリに分けられる。全方位に向けた死角のないラインナップを揃え、GPSサイコンのスタンダードとしての地位を確固たるものにしている。
※Garminの各モデルだけを比較する場合は以下の記事を参照
Wahoo – UXを重視した先進トップブランド
Garminと勢力を二分するWahoo(ワフー)。Wahooが生まれた2009年は、フィットネス機器が注目を集めていたタイミングであり、またUX(ユーザーエクスペリエンス)という言葉が一般に広く浸透した時期でもある。
Wahoo ELEMNT開発の出発点は、Garminよりも優れたUXの製品が作れるという確信から始まっている。そしてスマートフォンとシームレスに連携するGPSサイコン「ELEMNT(エレメント)」が生まれた。
ラインナップは、「ELEMNT BOLT」「ELEMNT ROAM」「ELEMNT ACE」の3つ。UXを重視した操作性が卓越しており、スムーズなスマートフォン連携によって直感的に迷うことなく扱うことができる(ソフトウェアアップデートも頻繁に行われている)。
サイコンマウントはWahooオリジナル規格。
ELEMNT ROAM v2のレビューはこちら
Bryton – グレード別の豊富なラインナップ
大手GPS関連企業から独立した社員が2009年に立ち上げた台湾メーカー「Bryton(ブライトン)」。当初はエントリー層が求めやすい1万〜2万円台がメインの価格帯だったが、近年はハイエンド系のラインナップも充実している。
モデル名は判りづらいが、モノクロ液晶のエントリーグレード400シリーズ、カラー液晶のミドルグレード700シリーズ、トレーニング機能が充実したプレミアムラインSシリーズに大きく分かれる。
サイコンマウントはBrytonオリジナル規格。
*Brytonにはエントリー機の『Rider17(¥9,460)』もあるが、ナビ機能を備えないため本稿では割愛
iGPSPORT – 開発スピードで市場ニーズに応える
2012年創業の「iSPSPORT(iGPスポーツ)」。製品開発スピードが早く、最新機能を詰め込んだモデルを毎年投入している。まだ動作の安定性に欠ける部分はあるが、ソフトウェアアップデートにより改善を続けており、その点を理解した上で選択したいメーカー。
ラインナップはベーシックな機能に絞ったBSCシリーズと、多機能なiGSシリーズに分けられ、それぞれナンバリングでグレード分けしている。
サイコンマウントはGarminと共通。
*BSCシリーズにはエントリー機の『BSC100(¥6,050)』もあるが、ナビ機能を備えないため本稿では割愛
比較①エントリークラス5機種
ナビ付きエントリー機種は¥10,000〜15,000が相場で、この価格帯はBrytonやiSPSPORTなどの新興ブランドの存在感が強い。地図表示はできないものの、必要な表示項目はほぼ備えるため、ライドステータスの把握には事欠かない。
メーカー | Garmin | Bryton |
iSPSPORT |
||
モデル | Edge130 Plus |
Rider420 |
Rider460 |
BSC200 |
iGS320 |
発売 | 2020.7 | 2019.10 | 2024.3 | 2023.9 | 2021.8 |
税込価格 | ¥33,880 | ¥11,000 | ¥15,730 | ¥11,000 | ¥8,855 |
ディスプレイ | 1.8インチ モノクロ | 2.3インチ モノクロ | 2.6インチ モノクロ | 2.5インチ モノクロ | 2.4インチ モノクロ |
重量 | 33g | 67g | 55g | 67g | 65g |
操作 | ボタン | ボタン | ボタン | ボタン | ボタン |
バッテリー | 13時間 | 35時間 | 32時間 | 30時間 | 72時間 |
地図表示 | – | – | – | – | – |
ナビ | ● | ● | ● | ● | ● |
パワー | △ | ● | ● | ● | – |
コネクタ | microUSB | microUSB | Type-C | Type-C | Type-C |
特徴 | 軽量 | 旧モデルで安価 | 上位モデルの機能搭載 | 基本機能搭載 | 72hバッテリー |
購入リンク | Amazon(セット) Amazon(単体) |
Amazon | Amazon | Amazon | Amazon |
各モデルの特徴
Garmin Edge130 Plus:小型軽量モデル。パワー計測はできるが、平均/ラップ/最大しか表示できない。またディスプレイが他モデルより小さいので視認性は低く、バッテリー持ちも長くはない。
Bryton Rider420 / Rider460:「Rider420」の後継が「Rider460」となるが、2モデルは併売されている。駆動時間と価格は「420」の方が優位。一方「460」は、画面の大型化、Type-C充電、ライブトラッキングやクライムチャレンジ機能など、ハードもソフトも強化されている。
iSPSPORT BSC200:特に目立つ部分はないが、エントリー機として十分な基本機能を備えるモデル。
iSPSPORT iGS320:72時間持続バッテリーと価格が強み。その分機能は絞られており、パワー表示、スマートトレーナー連携、Di2連携などはできない。表示言語は英語のみ。
どのモデルを選ぶ?
基本的な機能だけでOKであれば「BSC200」、トレーニング機能も必要であれば「Rider460」が最適。
「iGS320」のバッテリーは魅力的だが、パワー計測やDi2連携ができないため長期的に見ると厳しい。またこのクラスでは、あえて高価なGarminを選ぶ理由は見当たらない。
比較②ミドルクラス6機種
カラーディスプレイを備え、地図+ナビ機能を持つミドルクラス。あらゆる機種のベンチマークとなるGarmin Edge540を筆頭に、多様なモデルが揃っている。
メーカー | Garmin | Wahoo | Bryton |
iSPSPORT |
||
モデル | Edge540 |
ELEMNT BOLT V2 |
Rider 750SE |
Rider S510 NEW |
BSC300 |
iGS630s |
発売 | 2023.4 | 2021.7 |
2023.4 | 2024.12 | 2023.4 | 2023.12 |
税込価格 | ¥63,800 | ¥37,000 | ¥35,750 | ¥35,750 | ¥21,560 | ¥39,380 |
ディスプレイ | 2.6インチ カラー | 2.2インチ カラー | 2.8インチ カラー | 2.8インチ カラー | 2.4インチ カラー | 2.8インチ カラー |
重量 | 80.3g | 68g | 93g | 96g | 67g | 90g |
操作 | ボタン | ボタン |
ボタン+ タッチスクリーン |
ボタン+ タッチスクリーン |
ボタン | ボタン |
バッテリー | 26時間 | 15時間 |
40時間 | 30時間 | 20時間 | 45時間 |
地図 | ● | ● |
● |
● | ● | ● |
ナビ | ● | ● |
● |
● | ● | ● |
パワー | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
コネクタ | Type-C | Type-C | Type-C | Type-C | Type-C | Type-C |
特徴 | ・多機能 ・ベンチマークモデル |
・エアロ形状 ・KICKR連動 ・使いやすいUI |
・40hバッテリー | ・ワークアウト充実 | ・ローコスト | ・45hバッテリー |
購入リンク | Amazon |
Amazon | Amazon | Amazon | Amazon | Amazon |
各モデルの特徴
Garmin Edge540:前モデル530から機能・バッテリー・拡張性すべてパワーアップ。ナビ機能、パワーガイド、リアルタイムスタミナなど、コンパクトな筐体に最新機能を揃え、定番モデルの地位を確固たるものに。
Wahoo ELEMNT BOLT:スマートフォン連携のしやすさ、LEDを用いた色覚的なインターフェイスがわかりやすい。空力を考慮したエアロ形状、KICKR連動などの拡張性も強み。
Bryton Rider750SE:駆動時間40時間は全GPSサイコンの中でも最長クラス。フラッグシップのS800と機能差は少なく、価格競争力に長けているモデル。
Bryton Rider S510:ワークアウト機能が強化された小型モデル。液晶が大型化し、バッテリー駆動時間も延び、全体的な性能が底上げされている。
iSPSPORT BSC300:iGS630の機能を省略し、コストダウンしたモデル。省略されているのは電子コンパス、レーダーセンサー、Di2コントロール機能など。バッテリーも少ない。ただライドに必要な基本機能は備え、フルGNSSによる高精度なナビもこなす。
iSPSPORT iGS630s:45時間というランタイムの長さが驚異的。急速充電にも対応。iSPSPORTモデルの中でも豊富な機能を備える。
どのモデルを選ぶ?
表示項目の豊富さや動作の安定性で考えると「Edge540」「ELEMNT BOLT」は強い。ただGarminは、国内価格の値上げによって相対的にコスパが悪くなっていることは確か。
あとは予算次第となるが、駆動時間を重視するなら「Rider750SE」「iGS630s」が最適。
比較③ハイエンドクラス6機種
タッチスクリーンモデルが含まれ、操作性や液晶の見やすさが向上するハイエンドクラス。いずれも高価だが、利便性の高い付加価値が備わっている。
メーカー | Garmin |
Wahoo | Bryton | iSPSPORT | |||
モデル | Edge840 / Edge840Solar |
Edge1040 Solar |
Edge1050 |
ELEMNT ROAM V2 |
ELEMNT ACE NEW |
Rider S800 |
iGS800 |
発売 | 2023.4 | 2022.6 | 2024.6 | 2022.10 |
2024.12 |
2022.5 | 2024.4 |
税込価格 | ¥85,800 (ソーラー単体) |
¥126,800 |
¥126,800 |
¥58,500 | ¥108,900 | ¥52,800 | ¥53,900 |
ディスプレイ | 2.6インチ カラー | 3.5インチ カラー | 3.5インチ カラー | 2.7インチ カラー | 3.8インチ カラー | 3.4インチカラー | 3.5インチ カラー |
重量 | 84.8g/ 89.9g(Solar) |
133g |
161g | 93.6g | 208g | 106g | 110g |
操作 | ボタン+ タッチスクリーン |
ボタン+ タッチスクリーン |
ボタン+ タッチスクリーン |
ボタン | ボタン+ タッチスクリーン |
ボタン+ タッチスクリーン |
ボタン+ タッチスクリーン |
バッテリー | 26時間+6時間 | 35時間+10時間 |
20時間 | 17時間 | 30時間 | 36時間 | 50時間 |
地図 | ● | ● |
● | ● | ● | ● | ● |
ナビ | ● | ● |
● | ● | ● | ● | ● |
パワー | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
コネクタ | Type-C | Type-C | Type-C | Type-C | Type-C | Type-C | Type-C |
特徴 | ・多機能 ・ルート自動生成 |
・大画面 ・大容量バッテリー ・ルート自動生成 |
・液晶と操作性の進化 ・Garmin Pay |
・エアロ形状 ・KICKR連動 ・使いやすいUI |
・ウインドセンサー ・最大液晶サイズ ・使いやすいUI |
・ルート自動生成 |
・大容量バッテリー ・ルート自動生成 |
購入リンク | Amazon | Amazon ワイズロード |
Amazon | Amazon | Wahoo | ワイズロード | Amazon |
各モデルの特徴
Garmin Edge840 / 840 Solar:高感度のタッチスクリーンを搭載したGarminのフラッグシップモデル。540との機能差はないが、グローブの上からも使用できるタッチスクリーンでサクサクした操作が可能。ソーラーモデルあり。
Garmin Edge1040 Solar:ほぼスマートフォンの大きさに、豊富なトレーニング機能や自動ルート生成機能などのさまざまな付加価値。さらにソーラーバッテリーで最大45時間持続。長時間サドルの上で過ごしながら未踏の地を開拓するサイクリストのためのモデル。
Garmin Edge1050:前モデル「1040」と併売されるかたちだが、その理由はバッテリー駆動時間の減少によるものと思われる。代わりにディスプレイの解像度が上がり、CPUが強化されたことで、見やすさや操作感が大幅に向上している。1040の圧倒的な駆動時間は、ほとんどの人にとってはオーバースペックであることは事実で、“適切な距離”をライドするサイクリストにとっては、使い勝手が向上した1050の方が最適。
Wahoo ELEMNT ROAM:ELEMNT BOLTをベースに大型化&カラー化したモデル。スマホ連携でわかりやすく操作できる点もWahooならではの強み。第2世代ではデュアルバンドGPS採用でナビゲーションが強化された。
Wahoo ELEMNT ACE:Wahooの革新的トップモデル。特にGPSサイコンの中で最大サイズとなる3.8インチタッチスクリーンの視認性や操作性、そして統合型エアロセンサーによる空気抵抗の測定は、ライドクオリティを一段階上げる機能となる。そしてWahooの唯一の弱点だったバッテリーが30時間へ拡張され、対Edge1050として強力な存在に。
Bryton Rider S800:大画面、大容量バッテリー、そして価格が魅力的。スペック上はEdge1040に肉薄する。
iSPSPORT iGS800:モデル名もスペックもRider S800を意識したようなモデル。バッテリー容量が圧倒的。
どのモデルを選ぶ?
この価格帯であれば動作の安定性を最重視したい。そうなると現状ではGarminとWahooが有力であり、予算と機能に応じていずれかを選ぶのが最適。
とにかくバッテリーライフを重視するのであれば「Edge840 Solar」「Edge1040 Solar」、使い勝手を重視するなら「ELEMNT ROAM」「Edge1050」「ELEMNT ACE」という選び方となる。
GPSサイコンを選ぶ理由
GPSサイコンの優位性
高価なGPSサイコンを選ぶ理由はサイクリストによりさまざまだが、GPS非搭載のサイコンと異なるのは以下の3点。
正確なデータ計測と表示
スピード、ケイデンス、走行距離といった基本的なデータの記録に加え、気圧高度計を用いた正確な獲得標高や、パワーメーターと連動したワット数(W)の取得が可能。それを大画面の液晶に表示することで、ライド中のあらゆるコンディションを即把握できる。またライド終了後の走行データはスマートフォンにBluetoothで自動的に同期される。
ナビゲーション機能
事前に引いておいたルートに沿って走行できるナビ機能を備える。エントリーモデル以外はマップも搭載(マップを頻繁に利用する場合は見やすいカラー液晶を推奨)。
ワークアウトプラン
Stravaライブセグメントの表示、FTP計測、VO2MAX計測といったトレーニングに欠かせない項目の把握以外にも、ワークアウトプランを作成したりダウンロードすることが可能。
GPSサイコンで見る主要なデータ
データはライド中に必要なものと、ライド前後に見るものに分けられ、その中で「ナビゲーション目的」と「ステータス把握目的」の項目がある。
GPSサイコンで見る主なデータ
目的 | ライド中 | ライド前後 |
ナビゲーション | 周辺地図 | ルート作成 |
ルートナビ | ルートログ | |
ステータス把握 | スピード | 走行距離 |
ケイデンス | 獲得標高 | |
心拍 | TSS | |
斜度 | NP | |
パワー | Strava連携 |
特にパフォーマンス向上を目的とする場合は「GPSサイコンで計測→スマートフォンにアップして振り返る」という流れの中で、ライドの質を上げていくことができる。
そこで見る指標は、距離を稼ぎたい人なら走行距離、山好きは獲得標高、パワートレーニング中の人はTSSやNPなど。
Garmin Edgeシリーズのみを比較する
著者情報
Tats Shimizu(@tats_lovecyclist) 編集長&フォトグラファー。スポーツバイク歴11年。ロードバイクを中心としたスポーツバイク業界を、マーケティング視点を絡めながら紐解くことを好む。同時に海外ブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。メインバイクはStandert(ロード)とFactor(グラベル)。 |