Raphaが5つのクラブハウスを閉鎖した先に、あの「破壊的な美学」は再び生まれるか

2026年1月、Raphaは英米のクラブハウス5店舗(マンチェスター、ボルダー、シカゴ、マイアミ、シアトル)を4月までに閉鎖することを発表した。センセーショナルなニュースだが、この動きは今後ほかのアジア圏の店舗にも波及するということだろうか?これまでの取り組みや資料を紐解きながら、Raphaが今後目指すものを探っていく。

著者情報

Tats Tats Shimizu@tats_lovecyclist
編集長&フォトグラファー。スポーツバイク歴12年。海外ブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。同時にフォトグラファーとして国内外の自転車ブランドの撮影を多数手掛ける。メインバイクはStandert(ロード)とFactor(グラベル)。

text / Tats@tats_lovecyclist

クラブハウスの力点

Raphaは、2024年度決算で約1,560万ポンド(≒30億円)の純損失を計上し、8期連続の赤字となっている。売上高も前年比で約13%減少し、親会社による資産価値の評価減(約1億ポンドの減損)も行われている(*1)

コロナ禍の2021年をピークに売上は減少
Source: The game is about to change…(Dan Pettitt)

2024年に就任した現CEOのフラン・ミラーは、“Simpler, better(よりシンプルに、より良く)”という指針を掲げ、商品点数や固定費の削減、不採算部門の整理など抜本的な構造改革を進めているほか、USAサイクリングとのパートナーシップや新たなクラブハウスのオープンなど新たな打ち手も進めており、2027年までに黒字化すると話している。
決算資料によると、2025年には親会社からさらに1,500万ポンドの追加資金供給を受けている点からも、厳しい決算ではあるが、オーナー側は依然としてブランドの再生を信じて追加投資を行っている(*2)

今回の米英クラブハウス閉鎖も一連の改革のひとつだ。5店舗一気に閉鎖とかなりショッキングに感じるニュース(*3)だが、その狙いはただの採算整理だろうか?

Raphaクラブハウス一覧(閉鎖店舗含む)

拠点 オープン年 備考
ヨーロッパ    
ロンドン 2012  
マンチェスター 2014
閉鎖予定(2026.1.18)
アムステルダム 2015  
ミュンヘン 2016  
ベルリン 2017  
マジョルカ 2017  
コペンハーゲン 2017  
北米    
サンフランシスコ 2013  
ニューヨーク 2013  
ポートランド 2016
ベントンビルに移転
シカゴ 2016
閉鎖予定(〜2026.4)
ボルダー 2017
閉鎖予定(〜2026.4)
シアトル 2017
閉鎖予定(〜2026.4)
ロサンゼルス 2017  
ワシントンD.C. 2017 閉鎖
マイアミ 2020
閉鎖予定(〜2026.4)
オースティン 2021 閉鎖
ベントンビル 2021  
アジア・パシフィック
   
東京 2014  
大阪 2014 閉鎖
シドニー 2014  
メルボルン 2015  
ソウル 2016  
香港 2017  
シンガポール 2017  
台北 2017  
上海 2025  

北米のほとんどの拠点が閉鎖し、APACの店舗数が最大となる

米国を中心にクラブハウス閉鎖は進んでいるが、RaphaはAPACをより重視するようになっており、特に中国への投資を加速している。2025年11月には、上海に「次世代クラブハウス・コンセプト」を掲げた大規模な拠点をオープンさせた。

ラファ上海 ©Rapha

中国や東南アジアは富裕層を中心にサイクリング人口が増えているため、プレミアム層の開拓余地が大きい。上海の新拠点はイタリアの「チルコロ(社交場)」から着想を得た空間設計で、従来の物販中心から、より深くブランド体験を提供する場へと再定義されている(*4)

アジア圏ではRaphaのブランドステータスが依然として高く、コミュニティを通じた囲い込みが機能しやすい。実際に上海でのRCCメンバー数は急増していて、これからのRapha成長のエンジンとなる可能性がある。

 

Rapha Tokyoは?

成熟市場の課題

対して日本や欧米の成熟市場はどうだろう。傍から見る限り、最も明確な課題は、ブランドを支えるコミュニティの成熟(≒高齢化)と、それに伴うスタイルの固定化だ。

長年ブランドを支えてきたRCCの大規模な結束力は、皮肉にもコミュニティの硬直化を招いた側面がある。価値観や美学が完成され、安定した状態は、新しいトレンドを求める層にとっては心理的な参入障壁となり得る。
そのため最新のスタイルを模索するサイクリストたちは、ほかのプレミアムブランドに流れる動きが生まれた。

つまり米英でのクラブハウス閉鎖は、既存のコミュニティが固定費に見合うほどの新しい風を取り込めなくなった結果とも取れる。
だから中国・アジア市場へのシフトは、ブランドをリセットし、再び「高感度なプレミアム層」をターゲットに据えるための戦略的リブートとなる。

Rapha Tokyoと渋谷

そうなると東京のクラブハウス(Rapha Tokyo)はどうなるのかという話になるが、2023年の渋谷移転が、結果として効果的なリスク分散となったことが見て取れる。

北参道の隠れ家的な立地から、世界有数のトラフィックを誇る渋谷へ進出したことで、Rapha Tokyoは国内コミュニティの拠点という役割ではなく、国内ユーザーの消費の停滞をグローバルの新規客層が補完するという構造になったことが伺える。
実際に店舗を訪れると、客層の多くは訪日客であり、スタッフによる英語での接客を耳にすることの方が多い。

これは、閉鎖予定の欧米の地方都市のクラブハウスにはない、超級観光都市・渋谷が持つ「圧倒的な外部からの流動性」が成せる構造だ。
成熟市場の日本で、従来のコアユーザーを大切にしつつ、いかにして若年層やライト層、あるいは海外からの新規客を取り込むか。Rapha Tokyoが取り組む「都市型コミュニティの再構築」の成否は、今後のグローバル戦略における重要なテストケースとなるだろう。

だから渋谷のクラブハウスは、今後加速するアジア市場へのシフトを支える戦略的拠点の役割として残っていくと考えている。

訪日客が絶えることのないRapha Tokyo

 

米国市場への対応

モデルの転換

米国では4つのクラブハウスが閉鎖されるが、依然として売上は約20%を占め、英国とドイツに次ぐ3番目の重要マーケットだ。さらにRaphaの株式の過半数を保有するRZCインベストメンツの本拠地も、米国のベントンビルにある。

 
 
 
 
 
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親会社の本拠地にあるRaphaベントンビル

今回の店舗閉鎖は、重い固定費を削減し、より効率的で拡張性のあるモデルへ転換する意思表示でもある。閉鎖された地域のRCCメンバーに対しては、直営店に代わって現地の有力なサイクルショップやカフェを「RCCパートナーカフェ」として認定し、コミュニティの維持を委ねる方針を打ち出している。これにより、自社で巨額の固定費を背負うことなく、地元のサイクリストとの接点を、デジタルとパートナーシップで維持するという転換だ。
この方針は、クラブハウスが閉鎖された大阪でも現在RCCコミュニティが活発だと聞いていることからも説得力がある。

2028年への起爆剤

またRaphaは2025年でEFエデュケーション・イージポストとの契約を解消し、ワールドツアーの舞台から撤退したが、代わりにUSAサイクリング(アメリカ自転車競技連盟)と2029年末までのパートナーシップを発表している(*5)。その狙いは、2028年のロサンゼルスオリンピックだ。

かつて2012年のロンドンオリンピックが、ウィギンズの活躍によって“Wiggins Effect”として英国のサイクリング文化を爆発的に進化させたように、Raphaは自国開催となるLA28を最大の起爆剤に据えている。USAサイクリングとの提携により、従来のロードやグラベルだけでなく、トラック競技やBMXといった幅広いカテゴリーへアプローチを拡大し、クラシックなロードレースファンに留まらない、より若く多様な層へのリーチを仕掛けようとしている。

“All roads lead here.”というコピーのもとLA28に向けて動き出す

 

ウェアの課題

こうした経営の黒字化に向けた構造改革が進む一方で、避けて通れないのがプロダクト自体の課題だ。

近年のRaphaはセールの頻発が常態化しているが、これはセールをしなければ売れないプロダクトを量産していることの裏返しとも取れる。「過度なセールを控える方針」と何度もRapha側は明文化しているが、それでも値引き販売せざるを得ない状況が何年も続いている。
対照的に、ほとんどセールを行わずにブランド価値を維持しているPNSなどの競合と比較すると、その差は鮮明だ(PNSはPNSで別の課題はあるが)。

また商品ラインナップは、2026年に向けて、ライフスタイルラインの廃止や、新作の投入数を年間約65件から約30件へと半減させる計画が進んでいる(*3)。実際にここ1〜2年の新作は、カラバリが整理され、スタイリングの提案も安全圏に留まっていると感じる(ビブショーツの一覧を開くとほぼ真っ黒なアイテムだけが並ぶ)。
かつてツール・ド・フランスの歴史を再解釈し、ロードバイク界にモードの風を吹き込んだあの「破壊的な創造性」は影を潜めている。

ライフスタイルラインは残念ながら廃止される

Raphaが抱える最大のジレンマは、コアユーザーの成熟に伴い、プロダクトが中年層以上に最適化されつつある点だろう。
現代のハイエンド市場を牽引するPNSやMAAPのシルエットは、極めてタイトで丈が短く、現代的なストリートの感性を取り入れている。一方でRaphaの現行モデルは、着丈が長く、発色が強すぎるなど、一時代前を感じさせる場面が増えた。
これは国内大手のパールイズミが、ブランドを長年支えてきたベテラン層向けにウェア設計することで売上を立てている構図と似ている(パールイズミは若年層向けにデザインをシンプルにすると売れないというジレンマを抱えているようだ)。

しかし、RaphaのSS2026では、デザインの抜本的な見直しがなされるという。 もしアジア圏での成功が新たなプロダクト開発への投資を呼び込み、そこから再び「業界を牽引するRapha」を象徴するような革新的なキットが生まれるなら、それは新たな層への再リーチを可能にする。

我々がRaphaに求めているのは、“Simpler, better”で効率化された無難なウェアではない。かつてのように、我々の憧れる「高み」に位置し、自転車に乗る喜びを増幅させてくれる、あの破壊的な美学の復活だ。
アジアでのリブートやLA28など、ブランドの再生を進める取り組みが、プロダクトの創造性を蘇らせるための引き金になることを期待したい。

Rapha公式サイト

text / Tats@tats_lovecyclist

参考文献

*1 Rapha slashes valuation by £102m amid £15m loss and eighth straight year in the red, but insists “great work being done” to turn business around(road.cc)
*2 Rapha to Close Five Clubhouses as Brand Tightens Focus(bikerumor.com)
*3 Rapha財務報告書(GOV.UK)
*4 ‘New era for Rapha in Asia’ as Shanghai Clubhouse opens(fashionnetwork.com)
*5 Rapha Clothes USA Cycling, Sets Stage For Profit Again Amidst Ongoing Financial Reset(bikerumor.com)

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