コスパの高い機材投資。
車体の中で唯一接地しているタイヤは、交換したときに乗り心地の変化をダイレクトに感じ取ることができます。今使っているタイヤのフィーリングが体に染み込んでいるならなおさら。
ほかの機材と比較しても、タイヤ交換は性能の向上を低コストで感じられるコスパの良い機材投資。
とはいえ、タイヤは種類もサイズも豊富なので、何を基準に選べば良いか悩むかもしれません。そこではじめてのタイヤ交換でも迷わないよう、最適なタイヤの選び方を見ていきます。
text/Tats(@tats_lovecyclist)
1. タイヤの種類を選ぶ
ロードタイヤはクリンチャー/チューブレス/チューブラーの3タイプ。ホイールによって対応できるタイヤが異なるため、自身が所有するホイールに合わせて選択します。
クリンチャータイヤ
タイヤとチューブが別々になっており、ミドルグレードまでのほとんどの完成車に付属するクリンチャータイヤ。最も普及しているタイプなので、ホビーサイクリストにとっては運用のしやすさが強み。
メリット | ・安価で入手しやすい ・パンク修理コストが安い ・対応ホイールが多い |
デメリット | ・チューブ含めて重量がある |
チューブレスタイヤ
タイヤをリムに完全密着させることで、チューブがなくても空気圧が維持される構造。歴史は浅いものの、走行性能と対応ホイールの数がここ数年で一気に開花し、クリンチャーに次ぐシェアを持つようになったタイヤ。ワイドタイヤとの相性が良いこともあり、今後さらに一般化する見込み。
メリット | ・グリップ力のある高い走行性能 (荒れた道にも強い) ・パンクリスクが低い ・低圧にできるため乗り心地が良い ・空気が抜けにくい |
デメリット | ・交換が手間 ・パンク=タイヤ交換となるケースも (小さい穴はシーラント剤で補修可) |
チューブラータイヤ
チューブとタイヤが円筒状に一体化していて、専用接着剤またはリムテープを使ってホイールに貼り付ける。これまでロードレースにおけるスタンダードとなっていたが、チューブレスの台頭によりシェアを落としている。
メリット | ・なめらかで高い走行性能(舗装路に強い) ・対応ホイールのリムが軽い |
デメリット | ・単価が高い ・交換が手間 ・パンク=タイヤ交換となるケースも (小さい穴はシーラント剤で補修可) |
*
完成車の状態からホイールを替えていない限り、ほとんどのサイクリストが最初に交換するのは、完成車についてきたものと同じクリンチャータイプのタイヤ(チューブレス対応ホイールの場合を除く)。
ただ、普段使いを含めた全体的な性能の底上げを狙うならチューブレス、競技での使用に特化するのであればチューブラーというように、使いたい種類のタイヤとホイールをまとめて交換するパターンもあります。
本稿ではクリンチャーを引き続き使用することを前提に選び方を見ていきますが、チューブレスへ移行する場合は以下の記事も参考にしてください。
2. タイヤの幅を選ぶ
ロードタイヤの一般的な幅
ロードタイヤの一般的な幅は、4〜5年前までは23cが主流でしたが、2021年現在は25c〜30cが一般的になりました。
タイヤが太いと若干重量は増しますが、転がり抵抗の低減、グリップ力や快適性の向上というメリットの方が重量デメリットを上回るため、特に舗装路用としては25c〜28cが定着。
またディスクブレーキモデルはキャリパーの制約から開放されて太いタイヤが装着できるため、近年のフレームは30c以上のクリアランスが設けられたフレームがほとんどです(特にチューブレスは30cや32cと相性が良い)。
今の時代はスピード・快適性・走破性など重視する項目によってタイヤ幅を自由に選べるようになっています。
ホイールリム幅とタイヤ幅の互換性
ただ、クリアランスが確保されているからといってどの幅を選んでも良いわけではなく、ホイールのリム内幅(C17,C19などと表示)に応じて適正なタイヤ幅が決められます。
最新ホイールは28mm幅(28c)に適合するC19がスタンダード。ホイール交換時はリム内幅も合わせてチェックし、メーカー側が推奨する幅のタイヤを装着してください。
※新ETRTO規格について
タイヤ幅とリム幅の基準を制定したヨーロッパ標準規格「ETRTO(エトルト)」。ワイドリム化に伴い、2020年に規格が改定されています。
リム | タイヤ幅 |
|
旧ETRTO | 新ETRTO | |
C15 | 21-25mm | 18-21mm |
C17 | 28-32mm | 22-24mm |
C19 | – | 25-28mm |
C21 | – | 29-34mm |
新ETRTOと旧ETRTOのどちらをベースに作られたタイヤかで、適合するリムが変わってきます。
- ・旧ETRTO基準の25cタイヤ→リム内幅C15のときタイヤ幅が25mmになる設計
・新ETRTO基準の25cタイヤ→リム内幅C19のときタイヤ幅が25mmになる設計
現状はまだ新規格のモデルは一部しかないため、旧ETRTOを基準にタイヤ幅を選ぶものがほとんどですが、今後モデルチェンジのタイミングで各メーカーとも新規格へと移行していくものと思われます。
3. タイヤ選びのTips
タイヤを交換するタイミング
ロードバイクのタイヤは、表面がすり減って平らになったり、接地面のトレッドがなくなってきたら換え時。交換の目安を記載しているタイヤもあります。
乗り方によって減り具合は変わりますが、クリンチャーの場合おおよそ走行距離3,000~5,000kmがタイヤ交換の目安。特に減りやすい後輪を見て新しいタイヤに交換するか判断します*。
*後輪がすり減ったら前輪と入れ替えて長く使い続けるというローテーション運用もあり
またパンクはしていなくても、切り傷などによってタイヤ内部のケーシングファブリックが露出している場合も交換します。
タイヤのトレッドパターンの影響
タイヤのトレッドパターン(溝の形状)は、車のタイヤと同じように排水性やグリップ力を高めることを目的として様々なパターンが開発されています。
ただし、車のタイヤと比較するとロードタイヤは接地面が非常に少ないため、そういった効果はかなり限定的になるとも言われており、どちらかというと砂粒などの細かいゴミを弾いてパンクリスクを低減させることに効果的だったりします(ただトレッドによってグリップの変化を感じ取ることができる敏感なサイクリストもいる)。
タイヤの性能自体は、コンパウンド(ゴム素材)のグリップ力やケーシング(タイヤの一番内側)の柔軟性が重要なため、多くのサイクリストにとってトレッドはデザイン要素として考えてもそれほど差し支えありません。
ビード素材の選択
クリンチャータイヤは「ビード」と呼ばれる部分(図の◯囲み箇所)をホイールのリムに引っかける構造。ビード素材は、「ワイヤー」と「ケブラー」の2種類があります。
エントリーモデルに使われるワイヤーは重量があり、対してトップモデルに使用されるケブラーは軽く柔軟な素材。ケブラービードのタイヤは小さく折りたたむことができるため、フォールディングタイヤとも呼ばれています。
フォールディングタイヤの価格帯は1本あたり定価¥7,000前後。海外ECなどではタイヤ2本セットで1万前後となり、これがアップグレード価格の目安となります。
4. タイヤ主要6メーカー×モデル13選
主要タイヤメーカー
- ・Continental – コンチネンタル(ドイツ)
・Schwalbe – シュワルベ(ドイツ)
・Vittoria – ヴィットリア(イタリア)
・Pirelli – ピレリ(イタリア)
・Goodyear – グッドイヤー(アメリカ)
・Michelin – ミシュラン(フランス)
ロードタイヤは、自動車のタイヤメーカーとしても世界的に有名な企業が中心となってシェアの上位を占めています。
ピレリやグッドイヤーはここ数年で新規参入していますが、いずれも信頼性の高いモデルを展開。
タイヤの3カテゴリ
各メーカーが出しているタイヤは、いずれも性質別に3つのカテゴリに分類されます。
① オールラウンド |
走行性能・耐久性のバランスがよく、どんなシチュエーションにも対応できる |
② スピード重視 |
軽量で路面抵抗が少なく、レースで真価を発揮するタイプ。耐久性が弱点 |
③ グリップ力重視 |
全天候・季節に対応し、路面のドライ・ウェット問わず安定したグリップ力を発揮する |
普段使いであれば①をおすすめしますが、レース主体で考える場合は②、雨の日も走るライダーや通勤用途は③にするなど、用途に応じて選択します。
これを踏まえ、上記メーカー別に①②③の性質を持つフォールディングクリンチャータイヤを紹介します。
※表の重量・定価は注釈がない限り25cのものです
Continental – コンチネンタル
しなやかなブラックチリコンパウンド
製品名 | 重量 | 定価 | 購入 | |
① | Grand Prix 5000 |
215g | ¥8,200 | Amazon Wiggle |
耐久性・転がり万能の進化型オールラウンドモデル | ||||
② | Grand Prix TT |
190g | ¥8,800 | Amazon Wiggle |
5000より抵抗を抑え軽量化したTT・ヒルクライム用モデル | ||||
③ | Grand Prix 4-Season |
240g | ¥7,400 | Amazon Wiggle |
雨・パンクも強くグリップ力の優れたモデル |
総合タイヤメーカーとして世界的に有名なコンチネンタルのタイヤは、ドイツの自社工場で生産されています。
その「グランプリ」シリーズはクリンチャーモデルの中核。中でも「Grand Prix 5000」は、これまでロード用タイヤとして定番の地位を確立していた「4000SⅡ」を10年ぶりに一新した後継モデルとして2018年に登場し、新たなスタンダードモデルとなっています。ブラックチリコンパウンドを使用したタイヤはレーシング用途の中では最も耐久性が高く、それでいてグリップ力・転がり抵抗で高い性能を発揮するため、万人におすすめなモデル。
ほかにも転がり抵抗を限りなく少なくしたTT・ヒルクライム向けモデル「TT」や、ヘビーユースに耐えられる高グリップの「4-Season」など、5000をベースに安定感のあるラインナップが特徴。
Pirelli – ピレリ
ウェットも強いスマートネットシリカコンパウンド
製品名 | 重量 | 定価 | 購入 | |
① | Pゼロヴェロ | 210g | ¥6,900 | Amazon |
Pゼロヴェロシリーズのスタンダードモデル | ||||
② | Pゼロレース | 205g | ¥9,500 | Amazon Wiggle |
ただスピードを求めるワールドクラスモデル | ||||
③ | Pゼロヴェロ4S | 220g | ¥7,700 | Amazon Wiggle |
ドライ・ウェット両対応の4シーズンモデル |
フェラーリやランボルギーニの正規タイヤとして有名なピレリが、2017年ロードタイヤに参入。プレミアムクラスのスポーツカーで培われた技術(コンパウンドやトレッド形状)を自転車タイヤにも採用し、業界のシェアを伸ばしています。
スタンダードモデルの「Pゼロヴェロ」の性能バランスにおける評価は高く、またトレッドデザインが他メーカーよりも抜群に秀でており、ピレリブランドで手が出るサイクリストは多いと思います。
2021年には、ワールドツアーの選手とともに3年を経て開発されたレーシングモデル「Pゼロレース」が投入され(TLRモデルは2020年に発売済)、レースシーンでも死角のないモデルが揃いました。
Schwalbe – シュワルベ
しなやかで軽いスープレスカーカス構造
製品名 | 重量 | 定価 | 購入 | |
① | Pro One | 235g | ¥8,800 | Amazon Wiggle |
コンチ5000に匹敵する性能を持つトップレースモデル | ||||
② | Durano Plus | 385g | ¥8,000 | Amazon |
5mm厚の耐パンクベルトを装備した屈強なオールラウンドモデル |
1世紀以上の歴史を持つドイツのタイヤメーカーシュワルベ。
2020年にリニューアルしたハイエンドタイヤ“Pro One”は、新しいカーカス構造によってタイヤレバーを使わなくて良いほどしなやかなになり、チューブラーに匹敵する性能を実現しています。チューブレスモデルがフラッグシップに据えられていますが、チューブドタイヤもラインナップ。
23cが消えて30cが追加されたことも、時代に合わせるこのメーカーの先進性が垣間見えます。
Vittoria – ヴィットリア
軽く転がるグラフェン2.0
製品名 | 重量 | 定価 | 購入 | |
① | Corsa | 255g | ¥6,900 | Amazon Wiggle |
ヴィットリアを代表するレースモデル | ||||
② | Corsa Control | 265g | ¥6,900 | Amazon |
石畳にも耐えうる厚みのあるトレッド |
非常に薄く強度の高いシート状の物質「グラフェン」を2015年からロードタイヤで採用するヴィットリア。2019年にはグラフェンをさらに進化させた「グラフェン2.0」の登場によって性能面であらゆる数値が向上。
ヴィットリアの「コルサ」といえばレーシングタイヤの代名詞となっているほどで、そのグラフェン2.0を採用した新モデルは変わらず最高に軽やかな走りを提供してくれます。
Goodyear – グッドイヤー
オリジナルのダイナミックGSRコンパウンド
製品名 | 重量 | 定価 | 購入 | |
① | イーグルF1 | 210g | ¥7,000 | Amazon Wiggle |
ウェットにも強いオールラウンドモデル | ||||
② | イーグルF1スーパースポーツ | 190g | ¥7,300 | Amazon Wiggle |
しなやかで走りの軽いレース特化モデル | ||||
③ | ベクター4シーズン | 250g | ¥8,300 | ProBikeKit |
優れたウェットグリップ力を持つオールシーズンモデル |
世界3大自動車タイヤメーカーの1つグッドイヤーが、2020年にロードタイヤに参入。
グラフェンやシリカを配合したオリジナルの「ダイナミックGSRコンパウンド」を使用し、グリップ力・転がり抵抗・耐摩耗性に優れているというモデルをリリースしました。
その主力となるモデル名は、自動車用レーシングタイヤのフラッグシップと同じ「イーグルF1」。F1や耐久レースで見せられた走りと同様、他メーカーのトップモデルと渡り合う性能を発揮します。後発メーカーだけあって、23c〜32cまでの幅広いサイズ展開も強み。
Micheline – ミシュラン
高速回転するX-RACEコンパウンド
製品名 | 重量 | 定価 | 購入 | |
① | POWER ロード |
235g | ¥6,050 | Amazon Wiggle |
耐久性が高くトータルバランスに優れたモデル | ||||
② | POWER タイムトライアル |
190g | ¥7,920 | Amazon Wiggle |
軽さと転がり抵抗に特化した高速型モデル | ||||
③ | POWER オールシーズン |
270g | ¥6,160 | Amazon Wiggle |
グリップ力最強を目指した全天候対応モデル |
世界屈指のタイヤメーカーであるミシュランのハイエンドロード用レーシングタイヤが「POWER」シリーズ。かつてのPro4シリーズから刷新され、モデルごとに専用開発されたコンパウンドを使用。
このシリーズの中核となるのが「POWERロード」で、耐久性・グリップ力・転がり抵抗などタイヤの性能をトータルで見たときにバランスが取れるように開発されたオールラウンドモデル。
「POWERタイムトライアル」は徹底的に転がり抵抗と重量の削減を狙ったハイスピード向けレースモデルです。
これにどんな状況下でも走れる「POWERオールシーズン」を加え、POWERシリーズは“ミシュラン”の名前に相応しいラインナップとなっています。
* * *
このラインナップの中から最もバランスの良い1本を選ぶとすれば、Continentalの「GP5000」になると思います。タイヤがはめづらいのが難点ですが、よく転がる・パンクしづらい・耐久性が高いなど、使用中には不満の出ない性能の高さ。前作4000SⅡから引き続き選択しているサイクリストも多く、信頼できる1本です。
ただピレリやグッドイヤーの参入もあり、タイヤは選択の幅がさらに広がっています。周囲の評価を参考にしつつ、自分の脚で感覚を確かめながら最適な1本を見つけられるように、タイヤ探しを楽しんでください。
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著者情報
Tats Shimizu(@tats_lovecyclist) 編集長&フォトグラファー。スポーツバイク歴11年。ロードバイクを中心としたスポーツバイク業界を、マーケティング視点を絡めながら紐解くことを好む。同時に海外ブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。メインバイクはStandert(ロード)とFactor(グラベル)。 |