RICOH『GR IIIx』レビュー: まだミラーレスで消耗してるの?

2021年に発売した RICOHのコンデジ『GR IIIx』は、未だ人気衰えず抽選販売の状況が続いている。今年に入って使うようになったので、ライド用カメラとしての実力をレビューする。
ちなみにRICOHから、『GR Ⅳ』の開発が進行中であることが5月に発表されている。
秋頃の発売予定で、入手できるタイミングはまだ先のことになりそうなので、『GR Ⅳ』を待っている方も本記事でGRの特性を知ってもらえればと思う。

text & photo / Tats@tats_lovecyclist

*記事内の写真は、商品画像と注釈のあるものを除いてすべて『GR IIIx』で撮影したもの

RICOH GR IIIx スペック

現行の『GR III』『GR IIIx』と、秋発売予定の『GR Ⅳ』の現時点での仕様を比較する。

  GR III GR Ⅳ GR IIIx
レンズ構成 4群6枚
(非球面レンズ2枚)
5群7枚
(非球面レンズ2枚)
焦点距離 18.3mm(35ミリ換算で28mm)
F2.8~F16
26.1mm(35ミリ換算で40mm)
F2.8~F16
センサーサイズ 23.5×15.6mm 23.3×15.5mm 23.5×15.6mm
有効画素数 約2424万画素 約2574万画素 約2424万画素
内蔵メモリー 2GB 53GB 2GB
シャッタースピード 1/4000~30秒
NDフィルター オート、オン、オフ
撮影可能枚数 約200枚 未確定 約200枚
重量 257g 262g 262g
発売 2019年3月 2025年秋頃 2021年10月
定価 ¥133,750 未確定 ¥139,800

大きな違いは焦点距離なので、28mmが欲しいなら『GR III』『GR Ⅳ』、40mmが欲しいなら『GR IIIx』となる。
『GR Ⅳ』はレンズ構成が5群7枚にアップデートされており、描写の均質性や広角特有の歪み抑制が『GR III』より改善される可能性が高いので、28mm狙いならⅣの発売待ちが良さそう。40mm狙いであれば今のところⅣを待つ必要はない。

40mmの『GR IIIx』を選んだのは、普段ミラーレス機で良く使う焦点距離(50mmあたり)に近いからだ。28mmだと、自転車を寄りで撮ると歪みやすいので使用シーンが限定される。また自分の撮影スタイルが、「風景×自転車」より「サイクリスト×自転車×背景」の構図が多いので、40mmの方が自然な距離感でフレーミングしやすい。

 

なぜ今GRを使うか

7年前からの撮影スタイル

ライドにミラーレス機を携行するようになってもう7年経つ。その間に同じスタイルのサイクリストもすごく増えたが、正直なところ、普段のライドにミラーレスを持ち運ぶのは億劫だと思うようになっている。
フォトグラファーなので撮影仕事の場合はもちろんミラーレスを使うが、純粋なライドのとき、SNSのためだけにミラーレスを持っていくのは張り切り過ぎだ、と。

一時期iPhoneで代替しようと試行錯誤したが、16 Proのレビューでも書いたように撮影体験とアウトプットで納得できない部分があり、完全には移行できなかった(それでも記録用や動画機としてのiPhoneカメラは最高だ)。

その間を埋める存在がコンデジだが、今や選択肢は限りなく少ない。1型センサーの小型モデルはiPhoneの進化によって手放したし、SONYやLeicaのフルサイズコンデジはデカすぎる。そうなると、APS-CのFUJIFILM『X100VI』かRICOH『GRIII』『GRIIIx』しかない。
この中だと、ポケットにスポッと入るサイズと、40mmという絶妙な焦点距離の『GR IIIx』が残る。

 

今だからこそGRが活きる

4年前に発売されたGR IIIxだが(GR IIIは6年前)、2025年の今だからこそGRがライド用カメラの最高峰だと思う。その理由については、個人的なものも含めて3つある。

写真トレンドの変化

かつて写真の評価基準は「ピントが合っていること」や「被写体が明確であること」が前提だった。ブレたり不明瞭なカットは、迷うことなくボツにしていた。
でも今は、そうした“不完全”な表現がむしろ好まれるようになっている。あえてのピンボケやスローシャッターによる残像、ストロボを使った光の歪みといった要素が、「リアルではないけれど、感覚的に刺さる」表現として受け入れられ、撮影者もそれを狙ってシャッターを切るようになった。

スローシャッターとストロボは昨今の写真表現には欠かせない(ミラーレスで撮影)

なぜか?理由はスマートフォンカメラの進化によるところが大きい。特にポートレートモードの出現によって、誰もがミラーレスライクな“ボケ”の表現ができるようになった。背景がボケた綺麗な写真がタイムラインに溢れるようになった。そんな状況で、あえて専用カメラを持ち運んで同じ表現ばかり撮る必要があるだろうか?

GRの魅力は、“綺麗に撮れること”ではなく、“自由に撮れること”にある。ピントを外しても、パンフォーカスで撮っても、それがすっと成立する空気感。逆光で潰れても、それが写真として味わいを持つ。GRはそうした曖昧さや粗さを、排除するのではなく活かす設計思想を持っているように感じられ、それが今の表現トレンドと強く共鳴している。

昔だったらボツにしていた写真も残すようになっている

時代とともに「良い写真」の定義も変わっていくが、今の時代にGRがフィットしているのは間違いない。

個人的な撮影スキルの向上

まだ僕がカメラ初心者だったころ、『GR III』を知人に触らせてもらったとき、自分には使いこなせないと感じた。GRシリーズはカメラ初心者にはとっつきにくいカメラだと思う。

『GR IIIx』で見ると、焦点距離40mmはスナップには狭くてポートレートには広い中途半端な画角だし、わかりやすく背景がボケる写真は撮りにくいし(トレンドは変わっているけれどやはりボケる写真は万人受けする)、そもそもスナップシューターという思想が抽象的で何を撮ればいいのかピンとこない。

GRの仕上がりは素晴らしいが、シャッターの感触が微妙なので「撮る楽しさ」を最初は感じにくい(知人のカメラで撮影 ©@hxsx_ryxhxx

撮影スキルの向上にはいくつもの段階が必要になる。
画角の違いを把握する。環境に応じた絞り/SS/ISO設定を覚える。カメラごとの特性を理解する。RAW現像に習熟する。ライド中の取り回しに慣れる。いい写真が撮れる場所とタイミングと光の使い方を覚える。
これらは誰かに教わってすぐにできるわけではなく、いくつもカメラやレンズを使い分けつつ経験で身にしていくしかない。

こうした段階を踏んで、GRの焦点距離で明確に撮りたい画がはっきりイメージできると、これほど頼もしいカメラはない。

カメラに習熟している仲間にGRを渡して撮ってもらったもの。GRを使うのは初めてだったが、撮影勘があるので設定だけ抑えればイメージ通りのものが撮りやすい

カーゴビブの浸透

ポケットに入るサイズとはいえ、防塵防滴仕様ではないGRをバックポケットに入れるのは自殺行為だ。冬はまだいいが、夏のバックポケットはサウナより条件がひどい。

その点カーゴビブのポケットはまだ良い。汗が染みにくく、GRのようなカメラを持ち運ぶには最も適した位置とサイズのポケットだ。
この数年で、あらゆるブランドがカーゴビブをラインナップに加えるようになったことで、GRは誰もが持ち運びやすいカメラになった。

カーゴポケットはカメラを取り出しやすいので速写性も高い。ミラーレスを肩がけしているときと同じ機動力で撮影できる(知人のカメラで撮影 ©@kentasan_24

 

作例と設定

どんな写真が撮れるかが一番重要なので、さまざまな条件で撮ったものを掲載する。
すべてRAWで撮影してLightroomで現像している。現像の方向性として、普段使っているミラーレス機のプリセットに合わせにいくよりは、GRが持つ色味の良さを活かすようにしている。

カメラ設定

状況によってカメラの設定は変えるが、AvモードとTvモードの2種類を使うことが多い。
Avモード(絞り優先)は被写界深度の調整や光量の少ない場所で撮影したいとき、Tvモード(シャッタースピード優先)は速度感や今っぽい写真の雰囲気を演出したいときに使う。

GR IIIx作例

 

40mmの焦点距離はライド用として非常に使い勝手が良く、ひとつのライドのなかで寄りと引きをバランスよく収められる。コンパクトなボディのおかげでアングルの制限もミラーレスより少なく、表現の自由度が高い。

またGRの色味の特徴として、ナチュラルだけれど彩度抑えめで、全体的に渋く(大人っぽく)感じられる。特に暗部の色味のニュアンスが豊かなので、ほとんどの写真をアンダー気味に仕上げている。シーンによってモノクロも積極的に使いたくなる。

 

GRの弱点

個人的にGTR IIIxで不満に感じるのは以下の3つ。

肌色の表現が弱い:GRは大人っぽいクールな色味に寄っているため、肌の赤みや血色感がやや抑えられ、健康的な肌色が乏しい。レタッチである程度補正はできるが、普段使っているFUJIFILMのような色味は引き出しにくい。だから(そもそも設計思想と異なるが)ポートレートメインには使いづらい。

GRの色味の良さを残しながら少しだけレタッチで肌色の表現を変えている

防塵防滴ではない:防塵防滴仕様になるとサイズ感が変わってきそう。GRは小さいのに写りが素晴らしいことが魅力なので仕方がない。ライドで使うようになって数ヶ月、全然使えているが、GRにとっては過酷な環境にさらされ続けているのは確か。長期保証に入ることをおすすめする。

ファインダーがない&チルト液晶ではない:これもサイズ感とのトレードオフなので望むのは贅沢だが、シャッターの感触含めて撮影体験はチープだ。ファインダーが恋しくなるし、地面スレスレで撮るときとは、液晶がチルトしないので確認しづらい。

不満として挙げたが、これらを望むとGRじゃなくなることはわかっているので、理解した上で使う。
ちなみにバッテリー持続時間はよく弱点として指摘されるが、1回のライド撮影がMAX200枚程度なのでそれくらいは持つ。またAFも遅いが、動く被写体はパンフォーカスで撮ることが多いのであまり問題にはならない。

 

消耗しない一台

撮影仕事のときはミラーレス+GRの二台体制にすることも
(知人のカメラで撮影 ©@kentasan_24

ミラーレス機は、仕事や作品づくりには今後も不可欠な存在であることは変わらない。
ただ、ライドで隙のない1枚を狙おうとして、デカいカメラを背負うことに疲れたとき、GRは張りつめない撮影体験を与えてくれる。

身構えなくてもシャッターが切れる。失敗しても絵になる。そのラフさが、今の写真トレンドと時代の空気感に合っている。
ミラーレスを手放す必要はないけれど、自分にとって心地よい距離感で撮影できるカメラがあることは、ライドで撮影し続ける上でとても大切なことだ。

小さなボディに求めるものが凝縮された名機

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著者情報

Tats Tats Shimizu@tats_lovecyclist
編集長&フォトグラファー。スポーツバイク歴12年。海外ブランドと幅広い交友関係を持ち、メディアを通じてさまざまなスタイルの提案を行っている。同時にフォトグラファーとして国内外の自転車ブランドの撮影を多数手掛ける。メインバイクはStandert(ロード)とFactor(グラベル)。

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