text by Tats(@tats_lovecyclist)
ライドするためには、どの機材を使うか/どんなウェアを着るか/どんな小物を持ち運ぶか、といったさまざまな“モノ”に関する選択が僕たちに求められます。
モノ選びの価値基準は、サイクリストによって本当にさまざま。そこからはライフスタイルを含めたそのサイクリスト自身が持つ「ルール」のようなものが見えてきます。
そういった観点で、LOVE CYCLISTのメンバーが今どういうルールで自転車関連のモノを選んでいるかを話すのがこの企画。
第2回のテーマは「コーディネート」。僕たちが普段のライド時にどういうポイントを気にしてウェアリングしているか、どんなスタイルを理想としているかを語っていきます。
1. あした何着て走り出す?
Tats:今回はテーマがテーマなので、第1回のときの僕とRyujiくんに加え、Meiさんも参加してもらいました。
Mei:よろしくお願いします!
Tats:サイクルウェアをはじめとして、身につけるものの選択肢は本当に多くなりましたね。ファッション要素が強くなっているので、Meiさんの周りにいる感度の高い学生サイクリストたちを見ていると、どんどん新しいブランドや着こなし方を自分たちで見つけていて、僕も学ぶところが多いです。
Mei:お互い買ったものをSNSにアップしながら煽り合ってますね…。
Ryuji:時代が変わったなと感じます。僕の学生時代なんか本当に身につけるものは気にしなかったですもん。ウェアはみんなパールイズミを着ていたし、同じ1着をずっと着続けていても全然おかしいとも思わなかった。
Mei:今のRyujiさんからは想像できないです。
Ryuji:今回のようにファッション観点から語る企画もできるのは今だからこそだと思います。
Tats:ですね。で、ウェアについて語ろうとするとたぶん僕たちは延々と話せちゃうので、テーマを5つに区切ってやりますね。
Tats:まずはそれぞれのウェア観を知る上で質問したいのが、「ライドのコーディネートどうやって決めている?」ということ。身につけるものってその人の社会性を可視化するので、こういう“どうやって選ぶか”という切り口でそれぞれの価値観が出てくると思います。まずRyujiくんはどう?
Ryuji:やっぱり「誰と走るか」というのが一番に来ますね。そこって私服と同じ感覚だと思います。年上の人と会うときはある程度落ち着いた服装にするし、キャラが濃いメンバーと会うときはキャラ立ちする服装を選ぶ、みたいに。
ウェアだと、ラブサイライドのときはみんな比較的落ち着いたトーンになるのでそれに合わせますが、ほかのグループライドに参加するときはあんまり気にしなかったりします。
Mei:私も一緒に走る人や、ライドの強度とか距離を考えます。ウェア好きな人たちのライドだと、それぞれが何を着てくるかを予想して、それに合うものを選ぶことも多いですね。
Tats:予想が当たってるか当日答え合わせするのも楽しいよね。「あ、そっち着てきたか」っていうやりとりがお互いに生まれる。
Mei:こういうところでもグループライドの楽しみが増えます。
Ryuji:あとひとつ決め手になるのって「ブランドとライドの性質が合うか」というのがありますね。
それにはブランドの背景をよく知っている必要がありますが、たとえばPeloton de Parisは、着るときに去年会ったVincentさん(共同創業者)の顔がいつも浮かぶんですよね。
Tats:浮かぶ浮かぶ…。
Ryuji:あの人懐こいVincentさんが作ったウェアなんだという。だからトレーニングライド以外で着たくなります。ほかにもPas Normal StudiosとかCafé du Cyclisteとか、背景やコンセプトに深く触れているブランドは、当日のライドスタイルに調和するかという判断がしやすいのでよく選んでいる気がします。
Mei:私もめっちゃ考えます。っしゃ走るぞ〜っていうときはAttaqeurだし、ひとりで走るときはdhb、クールにトレーニング走したいときはMAAPみたいに。結構まわりもそれを考えて着て来てくれるので、最終的に雰囲気合ったりするんですよね。
Tats:人×ライド×ブランドという観点は外せないですね。僕もグループライドの調和は一番大事にしたくて、「目立ってなんぼ」という選び方は基本的にはしない。
Tats:写真に残したときに特に感じるんですが、良いグループって見た目の調和が取れているということも大事な条件なんですよ。チームジャージみたいに個性を一本化するのではなくて、それぞれのメンバーのスタイルがありながらグループとしてまとまっている、そういうことができるチームが良いチームだな、と思っています。それがウェア選びの根幹ですね。
Ryuji:みんな一緒に走る人たちのことをよく考えてますね。
Mei:社会性ってこういうことですよね。
2. 僕らのお気に入りコーデ
Tats:そういうウェア選びの観点がある中で、じゃあ実際どんなアウトプットをするのか。
Tats:今日はそれぞれSS2020のウェアをベースに、一番気に入っているコーデを着てきてもらいました。さっき3人ともポイントにしていた“誰と走るか”という観点は今回のコーデには含まれませんが、その分それぞれの「基本コーデ」のようになると思います。
Isadore x Mei
Tats:MeiさんはIsadoreですね。このジャージ=Meiさんと連想するほど似合っている。
Mei:私のライドスタイルにフィットする着こなしって何だろうと考えたときに、やっぱりベースにあるのが”ひと山ひとカフェ”なんですよね。「山も登るし、カフェも入る」というときのコーデだと、IsadoreのClimber’s Jerseyがぴったりだなと。これメリノなんです。
Ryuji:僕もこれの色違いメンズ持ってますが、メリノって普段着の雰囲気に寄せられて、カフェにぴったりなんですよね。それでいて機能性も高い。
Mei:そうなんです。あとこのデザインもポイント高くて、私肩幅が広いんですが、切り替えデザインって着痩せ効果があるんです。
Tats:そういう観点でのウェア選びめっちゃ大事ですね。
Mei:Isadoreを上下で揃えたのは、ビブの乗り心地が良いのもそうだし、ブランド理念に共感するところが多いというのもあります。本国がロックダウンしてたときにマスクを寄付したり、環境負荷を抑えるための再生素材ウェアとかサブスクリプションモデルをいち早く展開したりと、社会的な活動に一番力を入れているブランドだと思います。プロモーションも巧いですし。
Tats:再生素材は画期的でしたね。今シーズンからほかのブランドも始めましたが、Isadoreが先駆けになっている。
頭部はKASK Protone x AlbaOptics Delta。「Meiさんといえばこの組み合わせ」と思わせるモノのチョイス
Pas Normal Studios x Ryuji
Tats:RyujiくんはPas Normal Studios。今シーズンはRyujiくんのプロデュースでPNSコンテンツをやったし、思い入れのあるブランドだと思います。
Ryuji:あの企画はずっとやりたかったので、形になって嬉しいです。
PNSはレーシーな走りをするライドで一番選びたいブランドですね。僕自身今は積極的に走っている時期なので、その思いについてきてくれる雰囲気がこのブランドにはあります。レーシーなのに綺麗なミニマルデザインなので、一緒に走る人とも馴染みやすい。
Tats:このコーデ、カラービブっていうのも良いね。
Mei:ブロンズとホワイトという色合わせ、クリーンで好きです。
Ryuji:カラービブは今年から本格的に流行ってきたので、今からなら誰でも取り入れやすいと思います。
Tats:本当は去年「カラービブをコンテンツとして取り上げたい」とRyujiくんから提案もらっていたんだよね。ちょっと時期がまだ早いと判断して見送っていましたが、そのあと普及し始めるのに時間はかからなかった。
Ryuji:僕の感性にやっとマーケットが追いついてきましたね。
Tats:自分で言うのか(笑)。
「ヘルメットはSweetProtectionだとPNS感が出すぎるので、バランスを考えてKASKにした」というRyuji。
Valegroのライトグレーの絶妙な色感が良くて、コーディネートのハズシになっている。
Black Sheep x Tats
Ryuji:TatsさんはBlack Sheepの組み合わせ。ジャージのシルエット格好良いですよね。
Tats:Black Sheepも昔と比べるとトレンドのカットに変えてきていますね。丈がかなり短くて脚長効果あるし、余計なシワができないので見た目すっきりする。着心地も良すぎます。
Mei:この色合いはTatsさんの雰囲気にちょうど良いです。
Tats:抑えめのトーンなので、柄モノだけれど落ち着いたスタイルができます。グループのことを考えながら合わせられると思うし、30〜40代によく合うデザインです。
Black Sheepは僕がロードを始めたころから好きなブランドで、自分で買った枚数は一番多いと思います。“Black Sheep=はみ出しもの”というコンセプトが一貫していて、「白い羊に染まらない」という思いを強くしてくれる。それは自分たちのライドスタイルを後押しする力にもなっている。
Ryuji:LIMITED Tokyoのウェアもまたみんなで揃えて着たいですね。
Mei:ひとりで着るより何人かで揃えたほうが絶対かっこ良いです。“黒い羊”ライドやりましょ。
Tats:ぜひぜひ。
Tats:あと今回みんな選んだヘルメットを見ると、全員KASKでした。ProtoneとValegro。
Ryuji:やっぱり定番だとKASKになっちゃいますね。もう何にでも合う万能感。
Tats:Valegroって出た当初微妙だなと思ったけれど、どんどん好きになっていって今はもう外せなくなりました。一番抜け感出せるヘルメットだと思ってます。
Ryuji:Protoneはもう語る必要ないですね。特に白は何にでも合う。
Mei:ヘルメットとシューズは白を基本にしています。それだけで結構雰囲気出せるんですよね。
Tats:そう。基本白で、ハズシとしてほかの色を持っておく、というのが一番コーデに困らないですね。
3. ブランドミックスはありなのか
Tats:お気に入りコーデで3人ともウェアは上下同じブランドを着ているので、次に話したいのが、逆に「上下でブランドミックスするのはありなのか?」というお題です。先のコーデを見る限り僕たちの中で結論は出ているかもしれないけれど…。
Ryuji:基本は「なし」ですよね、基本は。サイクルウェアってシルエットが同じでセットアップ感の強い服なんです。セットアップスーツと同じで、上下を揃えるデザインでできている。これサイクルウェアの悪いところだと思っていて、ファッションとしては自由度がすごく狭いですね。
Tats:ASSOSとかQ36.5のように無地に近いビブならほかのブランドと合わせられないこともないけれど、これはライドスタイル次第かな。
Ryuji:ASSOSは性能面は本当に良いですが、どうしてもビブの生地と縫い目からASSOS感が出るので、レーシーな雰囲気になってしまう。そういうライドスタイルなら良いと思いますが、かといって同じレーシーなブランドでPNSとASSOSが組み合わせられるかというと…。
Mei:ちょっと違いますね。
Tats:2つともブランドの個性が強すぎると衝突してしまうんですよね。
Meiさんが以前Arden BikeとBlack Sheep合わせてたのは、ビブに主眼を置いたコーデで巧かったなと思いました。
Arden Bike(ジャージ) x Black Sheep(ビブショーツ)
Mei:Ardenってブランドカラー自体は弱いので、ほかと合わせても馴染むんですよね。ラブサイでよく取り上げられているブランドだと、ジャージもビブも個性がはっきりしているものが多いので、上下合わせないとモヤモヤしたものを感じてしまう。
Ardenのようなファストファッションのウェアだと、個性の強いBlack Sheepとも気兼ねなく組み合わせられることに気付きました。
Tats:こういう韓国系のブランドって20代向けに作られているので、着回すことが前提になっている。だからそういう組み合わせが「あり」になるんですね。
Ryuji:あと最近色んなブランドがグラベル系のウェアを出すようになっていますが、グラベルテイストになれば上下気にしなくても良くなりますね。そもそも専用ウェアでなくてもいいですし。
4. 今後取り入れたいスタイル
Tats:次は「今後取り入れたいスタイルは何か」というお題。
これ、僕は「七分丈」です。
Ryuji & Mei:あぁ〜。
Tats:だよね。夏は日焼けの問題があるからあまりできないけど、秋から冬にかけてはやりやすい。ニーウォーマーを使えば簡単にできるし。
Ryuji:なんかニーウォーマーって通な感じがあるんですよね。もともと吉本さん(※サイスポ前編集長)が好んでやっていたのを見て僕も取り入れるようになったんですが、意外と快適なんです。ビブだけだと寒いけどレッグウォーマー着るほどでもないときってこれからの季節に何回かありますからね。
Mei:あとCafé du Cyclisteが七分丈のビブを出しているんですよね。あれが可愛くて!
Ryuji:CDCは冬物強いですよね。素材で色々と遊んでるし、防寒機能をデザインにしちゃうところがすごい。今年の冬物も楽しみです。
Tats:ほかに取り入れたいスタイルはありますか?
Mei:今主流のブランドって、全体的に高価だし、ターゲットとしてはアラサーの年代くらいに合うデザインが多いと思うんです。だから着ると実年齢以上に見えてしまうものもあって。それがあるから積極的にArdenみたいな若年層ターゲットのブランドを取り入れたいし、もっとそういう展開が出てきてほしいな、と思っています。
Tats:韓国ブランド、日本に入ってきて成り立つだろうか。
Mei:TOKYO WHEELSさん何とかしてくれないですかね。
Tats:僕たちがそういうマーケットをつくっていかないとね。
Ryuji:僕はグラベルロードが欲しい気持ちが最近強まっているんですが、グラベルスタイルってぴちぴちじゃないし、年齢関係なく着られるんですよね。Meiさんが感じる既存のサイクルウェアに対する課題も、こっちのカテゴリならうまく解消されるかもしれない。Black SheepのAdventureコレクションとかすごく良いですし。
Mei:今私たちってハンドルバーバッグにモノを入れて走ることが多いので、ウェア側の収容力ってほとんど要らなくなっているんですよね。そうしたらあえてバックポケットのない服を選んで走っても全然差し支えないかもしれません。
Tats:取り入れたいスタイルを考えていくと、やっぱりファッション界寄りのモノを求めていますね。僕たちはコンペ寄りの走り方をするので今はタイトなウェアを好んでいますが、まずは着こなしのバリエーションを増やしながら、自由度を高めていきたいです。
5. 推しのブランドTOP3
Tats:次が最後のテーマで、「それぞれの推しブランドを3つ選ぶ」というもの。ウェアだけでなくヘルメットやアイウェアなどコーデに関わるものならどれでも良いです。僕たちはウェアブランドのアンバサダーをやっているわけではないので、割とフラットな感じで話せるかなと思ってこの質問をさせてもらいました。
それで、事前に出してもらったのがこんな感じ。
Tats | Black Sheep、Pedla、Suplest |
Ryuji | Pas Normal Studios、MAAP、POC |
Mei | Isadore、Café du Cycliste、Alba Optics |
自分で3つと決めましたが、本当は10個挙げたいくらい。正直ウェアに関しては、そのときどきの走り方に応じて合うブランドが変わってくるので、絞り込めないというのが本音です。
Ryuji:今日着てきたブランドが推しに入るのは間違いないですが、それ以外に何を入れるか結構迷いましたね。
でもそれぞれアクセサリ系が入っているのが面白いです。Suplestはシューズ、POCはヘルメット&アイウェア、Alba Opticsがアイウェア。
Mei:やっぱりアクセサリもこだわりは出ますね。Alba Opticsは今Deltaを使っているんですが、掛け心地が良いし、どんなウェアでも合います。学生だとそんなに何本もアイウェアを持てるわけではないので、合わせやすいアイウェアって貴重な存在なんです。Deltaのおかげで、ウェアだけにお金をかければ良いという状態にできているので。
Ryuji:Protone x Deltaの組み合わせ見ると「Meiさんだー」って思ってしまいます。
Mei:(笑)。あとインスタの公式アカウントがすぐストーリーズで投稿をシェアしてくれるのが嬉しいですね。こういうコミュニケーションがあるとさらに好きになります。
Tats:SuplestシューズはもともとMAAPコラボモデルから使い初めましたが、履き心地が良すぎて別の色も買ってしまうほど愛用しています。
Mei:TatsさんSuplestのイメージ強いですね。
Tats:このシューズ、トーボックスが広くて甲を包み込む感じがすごく良いんです。Solestarインソールだし。Specializedのシューズが合う人はSuplestも合うと思いますが、日本は代理店が取り扱いやめちゃったので試着できないのが難点ですね。
昨年モデルチェンジしたので、今履いているモデルが駄目になったら新しい方も試したい。
Ryuji:POCについては、ヘルメットもアイウェアも両方持っていますが、北欧デザインってやっぱりシンプルで格好良いです。POCはガチガチな雰囲気ではないので、結構グラベル系のサイクリストも使っています。もし今後グラベル系を試したいとなったときも引き続き使えるのが良いですね。
Mei:POCも使ってみたいなぁ。なんやかんや物欲やばいです(笑)。
Ryuji:これから冬物がリリースされるのでさらに止まらないですね…。
Tats:冬って寒くて篭りがちですが、冬物ウェア買って、それ着たさで走るというモチベートの仕方が最強ですね。やっぱりファッションとしては冬物の方が重ね着できるので楽しむ要素が多い。
Mei:まずはジレをひらひらさせるライドして、次は重ね着を楽しむライドをして。
Ryuji:やりたいことが尽きない…。
サイクリストの数だけライドスタイルがあるように、サイクリストの数だけ着こなし方がある。だから機材について語ることと同じくらい、ウェアについて語ることは尽きません。
こういう切り口の話をする僕たちは、ロードサイクリスト全体からするとマイノリティだとは思いますが、この話の先が、自転車の「社会性」とか「マーケットの拡大」につながっていく要素だと思います。
ぜひ読者の方も、仲間内やSNSでコーディネートについて語ってみてもらえればうれしいです。
Text/Tats(@tats_lovecyclist)
Talk/Mei, Ryuji, & Tats
フレーム編はこちら