Text by Tats(@tats_lovecyclist)
こんにちは。僕が普段感じていることや最近のトピックなどをラフな感じで書く不定期企画“Journal”の第7号です。
「ラフな感じで書く」といつも冒頭に入れていますが、3/29に公開した『COVID-19を乗り越えるサイクリストの行動』を書いたあとは、なかなか次の記事に向けた文章を書き進めることができませんでした。
それは、書くネタがないのではなくて、先が見えない状況の中で「何を書くことが正しいのかわからない」というような状態。
外ではいつもとあまり変わらない日常を送る一部の人々を見ながら、もしかしたらこのスタンスは心配し過ぎなのかもしれないとも思い、欧州の知人たちの声と対比しながら、まっくら森に入ったように思考が堂々巡りしていました。
真逆になった世界
自分のいる世界が変わる様を体験しています。
都内の多くのビジネスマンが通勤を止め、リモートワークに切り替わるようになりました。
それはただの働き方の変化ではなく、3.11後に「人とリアルにつながる」ことに強い価値を置くようになった社会が、コロナウイルスによって「できるだけ人と距離を置く」ことに価値がある真逆の世界へと身構える間もなく変えられてしまったということ。
その社会に自分たちを合わせるために、無理やりワークスタイルを適応させなければならないのが今のフェーズなので、やりづらさや不安を感じることもあるだろうと思います。ただ長期戦になるであろう「物理的につながらない社会」の中で、次第にリモートワークというスタイルは定着していくはず。そうなると、“不要不急”な移動や会議を必要としない効率的な働き方が当たり前となり、そこから生まれた余剰時間の中で、新しい価値創出が生じるようになります。
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自転車の世界も同様のことが起こっています。
人と一緒に走ることが大きなリスクを伴うようになった社会において、「もともとソロで走っていたから変わらない」というサイクリストもいますが、仲間と走ることがモチベーションになっていたサイクリストも多くいます。その場合(僕もその一人ですが)どうやって自転車と向き合っていくか。
オンラインで走ることはひとつの解決策で、多くのサイクリストがこのタイミングでローラー台を購入し、Zwiftを中心としたインドアのトレーニング環境を手に入れています(Wiggleもターボトレーナーの在庫がほぼゼロになった)。その中でミートアップ機能を利用して仲間とつながることは、パフォーマンスを上げる観点では効果的。奇しくも今の社会がよりレースの世界に深く入り込む土壌を作っています。
ただ、Journal Vol.6で書いたような「QOLを上げるライドスタイル」を実行しようとすると、すでに無理が生じることを痛感しています(社会がコントロールできないほど流動的に変化している中で、QOLにプライオリティを置けない状況になりつつある)。
今必要なのは、「物理的なつながり」から「精神的なつながり」への変化に対し、どう対応して自分と自分が属するコミュニティを守るかを考えること。
リモートワークというワークスタイルが定着していくように、これから少しずつ、真逆の社会におけるサイクリストのライドスタイルが見えてきて、新たな価値が生まれていくのだと思っています。
今はコロナウイルスへの対応が最優先される中で、僕らひとりひとりの行動によってその終着駅までの道のりをつくりながら、次の明るい未来に向けて積極的にアクションしていきたいと思います。
COVID-19に対するサイクリストの意思
海外ブランドの人たちとやりとりしていると、外出制限が厳しくなって「頭おかしくなりそう」とか「これ以上楽しみを取り上げないで」という嘆きが。
日本がそうならないことを願って、僕たちサイクリストができる行動についてまとめました。どうか良い方向に進んでほしい😧https://t.co/77Gn82Kyxb— Tats / LOVE CYCLIST (@lovecyclist) March 29, 2020
この記事は幸い多くのサイクリストの元に届き、今の社会情勢に適合するライドスタイルへと見直してもらうきっかけとなりました。
行動規範を提示しようと思ったのは、3/25都知事の会見後、不確実な状況の中でどういうライドスタイルが望ましいかサイクリスト間でも意見が分かれているのをタイムライン上で見かけたことから。確実な情報と先行する欧州の事例を元にガイドラインを提示できると判断し、これまでの海外の友人とのやりとりと信頼できるソースを織り混ぜて整理しました。
結果的に多くのサイクリストに届き、「指針を示してくれた」「わかりやすくて整理できた」「同意」という声とともに自身の走り方についての判断材料としてもらえていることは、社会的な意義を含めて大変ありがたいことだと感じています。
また福岡の「正屋」さんのように、いくつかの自転車ショップもこの記事での考え方に賛同いただき、ご自身のサイトでウイルス対策に関する指針を発信いただいています。
コントロール不能な社会においては、僕らの力の及ぶところは「自分の持ち場でできること」しかありませんが、自転車界を取り巻くひとりひとりも、コロナウイルス禍を乗り越えるという“真実”に向かって感染拡大防止の意思を持つことが今最も重要なことです。ソーシャルメディアを通して、多くのサイクリストから「社会的な行動をする」という意思を受け取ったことが、僕にとって記事を書いた責務に対する救いになりました。
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余談ですが、LOVE CYCLISTというメディアは、まだ業界全体から見ると知名度は高くありません。
仲間や身近な人からは「もっと広まればいいのに」と言われていて(そうなっていないのは僕の責任ですが)、より多くの人に知ってもらう機会をつくることは今年の課題でした。
COVID-19記事が広く読まれたことがこのメディアの認知獲得にどれほど影響したかは現時点ではわかりませんが、時宜に適ったコンテンツの有効性を学んだ機会でもありました。
もしこれを機に読み始めた方がいれば、僕たちは自転車の世界と社会の繋がりをより深めるために行動しているので、その動きを今後も見てほしいと思います。
今号のトピックス
最近気になる業界のトピックスについて。
安井行生氏による新しいメディア『Le route』
著名な自転車ジャーナリスト安井行生氏が、新しいWebメディア「Le route(ラ・ルート)」を立ち上げるとのこと。月額500円予定のクローズドな会費制メディアで、現在クラウドファンディングを募っており(4/15締切)、4/24にローンチされる予定。
安井氏と面識はありませんが、氏の文章と知人から伺った話から、機材評価において非常に信頼できる感性を持っていらっしゃると感じています。
その安井氏が、広告主に忖度せず書きたいことを好きなようにインプレッションするというこのメディア。コンセプトがすごく面白いし、今まで既存メディアへの寄稿によってかなりフラストレーションを抱えていたことが伺えます。
そして気になるのは、「自転車機材レビュー」という限りなく狭いマニア向けのマーケットにおいて、会員制ビジネスモデルが成立するかどうかという点。機材も自前で調達されるそうなので、キャッシュフローがうまくまわる仕組みにできるのか(あと既存メディアへの寄稿とLe routeでのインプレッションの二枚舌が許されるかという点も)。
今までにない自転車メディアへの挑戦を見せていただけるので、個人的にも支援したいと思います。
今号のライド
最近のライドで、素敵だったものをご紹介。
ラブサイライド(宮ヶ瀬)
外出自粛勧告前に行った最後のライドは、宮ヶ瀬をぐるっと周るコース。
僕たちのライドスタイルは(Ryujiが元競技者なので)割と強度は高めな方だと思いますが、走ること以外にも、参加メンバーの撮影・カフェでの情報交換・新しい人を繋げたり繋げてもらったりとソーシャルライドの側面が強く、企画する僕自身いつも良い刺激をもらいます。
ちょうど春の陽気が出始めたころで、ジャケットを脱いで感じる風がとても快適。
Photo by Rin(@f430_lisa_)
同じブランドや同じウェアで揃えるのではなく、PNS/Pedla/Café du Cycliste/Attaquerなどひとりひとりが好きなウェアを自分のスタイルで着こなしている。良いメンバーに恵まれています。
これから新しいウェアに身を包んで皆とSS2020を祝福したかったけれど、今はこのコミュニティの無事と再会のときを願うばかりです。